魔列車で行こう-5/5-
「そろそろ寝ることにしよう。個室車両があるようだから、女性はそちらで寝るといいだろう」
ウォーリアオブライトに言われるように、女性陣は大きく頷きを返すと個室の寝台車両があると言うほうへと連れ立って足を進めた。
それを見送るとウォーリアオブライトはひとつ息を吐き、そのまま椅子に深く腰掛けて兜を外すと目を閉じる―それを合図にしたのか、それとも眠気に耐え切れなくなったのか。仲間達は三々五々、目を閉じて眠りの世界へと誘われていった。
だが、そんな中―未だ眠りに誘われることのない者が3人だけそこにいた。
「なぁ、降りるなとは言われてるけど…終点に何があるのか気にならねえ?」
周りの仲間達が次々と眠りに落ちて行く中、カードゲームに興じていたジタンは悪戯っぽい笑みを浮かべながら隣に座っていたラグナと正面にいるバッツにそう声をかける。
手に持ったカードの内容を改めながらバッツは顔を上げ、ジタンの言葉にそうだな、とだけ返して手にしたカードから1枚取り出して差し出す。
「降りなきゃいいんだから、終点に着くまで起きてるのもいいかもしれないな…っつっても皆寝ちまったけど」
「ほんとだ…って言うか起きろスコール」
バッツはラグナの言葉に答えるかのように、先ほどまでは目を開けていたのに自分の隣で背もたれと肘掛けに身体を預けるようにしてうとうととし始めたスコールの身体を揺する。
「…起きていたいならお前らだけで勝手に起きていればいいだろう…」
「って言ってもオレ達しか起きてねえし…ってあれ?フリオニールは?」
座席の上に膝をつくようにして、自分たちの真後ろで眠りに落ちてゆく仲間達の姿を見て取ったジタンはひとりだけ―フリオニールの姿だけがその場にないことに気付いて背後の3人に問いかける。
「フリオニールならさっき、雪が見たいってデッキの方に出て行ったけど」
ラグナは言葉だけでそう返す。だが視線は場に出されたカードと手札を見比べている―どうやら必死で戦略を練っているようではあった。
ラグナの答えを聞いてジタンはすぐに座席に座りなおすが、思いついたように悪戯っぽい表情を浮かべると人差し指を立てた。
「とか言いつつライトとこっそり会ってたりしてなー」
「あり得るな。なぁスコール、その辺問い詰めたいからフリオニールが帰って来るまでは起きてろよ」
もう一度寝る姿勢に入ってはいたがバッツが言葉と共に何度も身体を揺さぶり、おちおち眠ってもいられないスコールは半分だけ目を開けた状態で大きく息を吐いた。
それから3人が眠い目を擦りながら何度かカードゲームを繰り返した頃、車両の扉が開く音がして―目をやると足音を殺しながらフリオニールが戻ってきて、自分たちが座っている席と通路を挟んだ隣の席に座ってすぐに目を閉じたところまではジタンもバッツもラグナも覚えている―
だが、その先のことは3人とも何故か覚えていない…寝るな、と互いに言葉を交わし合っていた筈だったのに、終点にたどり着いたのを確かめることなく―まるで、スリプルの魔法をかけられたかのように3人ともカードを手にしたまま眠りの世界へと落ちていった。
彼らが皆眠ってしまった頃。
ようやくたどり着いた終点で、彼らの目には見えなかった「他の乗客」達が魔列車から降りていったことには…「生身の人間」である彼らは誰ひとりとして気付いてはいなかった。
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