魔列車で行こう-3/5-
「しかし、俺には気になることがある」
「ん?」
「この列車…俺たち以外に乗客がいない気がするんだが」
突如そんなことを呟いたカインに、仲間達は皆あたりをきょろきょろと見回す。確かに、この列車に自分たち以外に乗客がいるようには思えない。
乗車する時にヴァンが言われたことを考えれば、終点まで「誰か」を運ぶ必要があるのだろうことは想像に難くない。それなのに何故、この列車には自分たち以外に乗客がいないのだろうか―
「確かに…そう考えると何だか不気味でもあるね」
「…もしかしたら他の車両に乗っているのかもしれないな」
セシル、そのセシルと対面する形で座っていたクラウドがカインの言葉に呼応する。
そう言えば他の車両に乗ったことはなかったような気がする、とその発言で思い出したのだろうか、通路をうろうろしていたバッツがにぃと笑うと言葉もなく駆け出して隣の車両へと向かう。
待てよ、とか言いながらそれをジタンが追いかけていき、その背中を呆れたようにスコールが見ているが他の仲間が皆自分を見ているのに気付いたのだろうか、大きく溜め息をつくと駆け出したジタンとバッツを追ってスコールが歩き出した。
「なんだかんだ言って、こういうとき真っ先に動いてくれる好奇心の塊みたいな奴がいると楽ができていいな」
「…ほんとはお前も行きたいんだろ?顔に書いてあるぞ、ラグナ」
「いや、オレは安全を確かめてからでいいよ、“きみこ”危うきに近寄らずって言うだろ」
ラグナの発言に対して、全員の表情が変わる。笑いを堪えている者、呆れている者、どう言えばいいのかと悩んでいるかのように口をぱくぱくさせている者…互いに顔を見合わせあいながら様子を窺っている、が…口を開いたのは結局、ライトニングだった。
「ラグナ、それを言うなら『君子危うきに近寄らず』だろう」
「え?そうだっけ」
「そうだっけじゃない」
呆れたようなライトニングの溜め息に、笑いを堪えていた者は堪えるのをやめて小さく吹き出す。
笑われたことでラグナが照れたように頭を掻き、和やかな空気が漂ったところで賑やかな足音が一行の乗った車両に近づいてくる―案の定、その足音の主は様子を見に行ったバッツとジタン。
その背後からはのんびりとした足取りのスコールも一緒になって戻ってきていた。
「で、どうだった?」
「やっぱりおれ達以外の乗客は見当たらないな。でも、食堂車とかあったぞ」
「あと、ベッドつきの個室も4つあった。乗った駅に戻るのは明日ってことは今日は車中泊だろ、女の子達はそっちで寝たらいいんじゃねえかな」
誰かを運ぶ為の列車なのにやはり自分たち以外の乗客はいない。
セシルが言うとおり、気味が悪いと言えばその通りだが…そこまで考えない者も当然いるわけで。
「ってことはこの列車、オレたちの貸切ってことだよな!すげーななんか、贅沢な気分」
「…ヴァン…」
何かを言うのも疲れた、と言うようにオニオンナイトが一言だけその名前を呼ぶ。そのやり取りにまた一行には笑いが巻き起こるのであった。
事実、何かあったとしてもこれだけ歴戦の戦士達が揃っているのであればそうそう恐れることもないのかもしれないと言う楽観的な考えが彼らの中にはないとも言い切れず…食堂車の話が出たからだろうか、どこかから誰かの腹の虫が鳴く音がした。
「そんな話してたら腹が減ってきたっスね」
呟いたのはティーダだったのできっと腹の虫の犯人もティーダなのだろう。それを裏付けるかのように、ティーダの隣に座っていたユウナが小さくくすくすと笑っている。
その言葉に最初に立ち上がったのはウォーリアオブライト。一番意外な人物が反応したことで、仲間達の中に微かとは言いがたいざわめきが生じた。
「私もそろそろ何か食べたいと思っていたところだ。食堂車があると言うのならば今から食事に向かうとしようか」
ウォーリアオブライトがそう言うと何故か逆らうものがいないのもこの一行の不思議なところ。
皆続くように三々五々立ち上がると、自然と先ほど様子を見に行ったバッツが先頭に立ち、一行は連れ立って食堂車へと足を運んだのであった。
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