魔列車で行こう-2/5-






さて、魔列車に乗車しに行くと決まったとは言え、あの列車に乗車できる駅はどこにあっただろうかなどと話し合いながら進んでいると―靄のかかった建物が一行の目に映った。
あんなの建ってたっけ?と最初に言ったのは誰だっただろう。誰が言ったのか分からないほどに、皆が一様に同じようなことを言っていた。
あんなところに建物があったような記憶はない。だが、靄の向こうの建物の奥には間違いなくレールが伸びていて、彼らの目的であった魔列車が停車しているのが見て取れた。

「もしかして、おれ達が乗ってみたいって言ってたのを見越して迎えに来てくれたのかもな」
「そんな都合のいい話があるのかなあ」

突如現れた駅へと呑気に近づいていくバッツの後に、首を捻りながらセシルが進む。彼らは皆同じようなことを考えながらも、探す手間が省けたなどと思いながら駅舎へと足を踏み入れるのであった。
駅であるにも関わらず、切符を売る場所も時刻表も何もないその建物。ただ、ホームがありタラップから間違いなく魔列車に乗り込むことが可能なようにだけは見えていた。
そして、乗車口の近くには乗組員だろうか、白いフードをすっぽりと被った人物が立っている。

「そう言えば、いつも切符ないまま乗っちゃってるけどいいのかなぁ?」
「乗せてもらえないと折角ここに来た意味がなくなっちゃうね」

オニオンナイトとティナのその会話を聞いていたヴァンは思いついたように、乗車口の近くにいる人物の方に駆け寄る。あまりにも迷いのない行動に、止めようとして一瞬手を伸ばしたカインの腕が虚しく空中を切る。
案じるかのようにその背中を見守っていた仲間達だったが、ヴァンが何やら言葉を交わしてすぐに戻ってくると―やはり答えが気になったのか、いっせいにヴァンに駆け寄っていた。

「なんて言ってた?」
「なんか良くわかんないけど終点では降ろすことが出来ない、って。終点に着くのはオレ達がみんな寝静まったあとで、起きる頃には折り返してこの駅に戻ってくる為に走ってるけどそれでいいなら乗っててもいいってさ」
「確かに何だかよく分からないわね」

ヴァンの言葉にティファは首を捻っていたが、乗ってもいいと言われたということで俄然喜び始めるのがバッツとジタン。

「要するにアレだろ、終点で折り返して結局ここに戻ってくるし終点では絶対降りたらダメ、だけどただ乗ってる分には勝手にしろってことだよな」
「ま、いいんじゃないのか?おれ達の目的はこの列車に乗ること、なわけだから」

いつものように気楽な2人のその言葉に、一行は頷き合うと列車へと近づいていった。
確かに、乗車口の近くに立っている人物は彼らが乗り込もうとしてもそれ以上は何も言わない。ただ、最後尾から乗り込もうとしていたウォーリアオブライトだけは彼の言葉をはっきりと聞いていた。
―終点では、絶対に降りないでくださいね…―


「いやーそれにしても、この椅子ほんといいよなぁ。適度にクッションもきいてるし、このビロード張りのところが高級感があって」
「…ラグナの説明だと妙に安っぽく聞こえるのが不思議だよね」

乗り込んだ車両で椅子に腰掛け、楽しそうに椅子をふかふかと触っていたラグナの言葉に呆れたようにオニオンナイトが一言。相変わらず毒吐きやがって、と呟くラグナの表情はかすかな苦笑い。
良く考えなくても仲間達の中で最年少のオニオンナイトが最年長と思われるラグナにしれっと冷たい言葉を言い放っているのも奇妙な光景ではあるが、それもまたある意味いつものことなのかもしれない。

「でもこう…窓から見える風景が流れていくって言うのはなんか、いいよね」

言った張本人のオニオンナイトは既にラグナに対しての発言など忘れたかのように窓の外を流れる景色に視線を移している。
普段は仲間の誰にも負けないくらい大人ぶっている彼もこうして見ると歳相応の少年らしくも見えてくる―それに気付いたのか、隣で一緒になって車窓からの風景を見ていたティナは優しさを含ませた微笑みを浮かべていた。

「俺、元の世界で列車なんて乗ったことなかったからな。地上を移動する時は歩くかチョコボくらいしか移動手段がなかった」
「あ、僕達もそうだよ。飛空艇の方が空を飛ぶ分技術的には難しそうなのに列車のほうが存在しないって言うのも不思議な話だね」

通路を挟んでそんな会話をしているフリオニールとセシルの話を、他の仲間達も興味深いと言うような表情で聞いている。
セシルの世界では飛空艇は普通に生産されていたと言うしフリオニールも元の世界で飛空艇を誰かから借りていたような話をしていたのだが空を飛ぶ船があって陸を走る列車がないと言うのも確かに奇妙ではあった。

「そもそも、元の世界で列車に乗ったことがある者はいるのか?…私は一切そのあたりの記憶がないが」

ウォーリアオブライトの問いかけに答えるかのように、窓の外に視線を送っていたライトニングが仲間達の方へと視線を移す。

「うっすらとではあるが乗ったことがある記憶はあるな…ただ、車内で随分暴れたような気がするんだがなんでそんなことになったのかは思い出せない」
「ライト…それ、多分思い出さないほうがいいと思います」

苦笑いを浮かべながらやんわりとユウナが止める―ライトニングはそこまで見境のない性格でないことは分かりきっているので、そんな彼女が列車の中で暴れたとなると何かよからぬことが起こったのであろうことは想像に難くない。
それを思えばこれ以上ライトニングに不必要なことを思い出させる必要もないだろうというユウナなりの気遣いなのかもしれなかった。
そんなやり取りを、それぞれの隣に座っていたティーダとフリオニールは聞くともなく聞きながら…なんとなくその2人の会話に入っていくのが憚られたのかそちらから目を反らし、そらした先で視線が合って気まずそうに笑い合うのであった。


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