魔列車で行こう-1/5-






魔列車。誰がその列車をそう呼んだのか、もう覚えている者はいない。
この世界には時折、戦士達の記憶の中の風景を模したような場所が存在するのではあるが―魔列車を覚えている者が誰一人として存在しないのだ。
ただ、何処から来て何処へ行くのかも分からずに走っているその列車―戦いの最中、イミテーションを追って乗り込むことは時にあったが戦う為にではなく乗ってみたいと最初に言い出したのは確か、バッツだったような気がする。

「行き先の分からない列車に乗ると言うのは危険じゃないか」
「ヤバそうだったら飛び降りたらいいんじゃねえの?」

バッツの提案に対していつもの調子でスコールとジタンが話し合っている。他の仲間達はそれを横目で見ながらまたやってるよ、と思っているところまで含めて、本当に彼らにとってはいつも通りの光景。
慎重なスコールの提案を、最終的にバッツとジタンがねじ伏せてしまうのだろうなとなんとなくは予想がつく。時々スコールの説得が勝つこともあるが、大体は―

「お、なんだ面白そうな話してるな。あの列車か?」
「あれ、オレも気になってたんだよなぁ。な、皆で行ってみないか?」

―こんな調子でラグナやヴァンが話に乗る。多分次はヴァンがオニオンナイトとティナを巻き込みに行くのだろう、そして人数が膨れ上がり、最終的には「皆で」と言う話になってしまう。
そして、ほぼ全員がその気になったところで大体は言いだしっぺのバッツか煽ったジタンのどちらかが、「最大の難関」を説得しにかかる。これもまた、いつもの通り―

「と、言うわけなんだ。折角だし行ってみてもいいだろ?」

眉を寄せ難しい顔で腕を組んでいるウォーリアオブライトを見上げ、ジタンが説得するように言葉を繋ぐ。
勿論ウォーリアオブライトだって仲間のやることなすこと全て止めてしまうほど頭が固いわけではないが、あまり戦いに関係のないことをすると言い出すと疑問を呈し、結果としてその行動を止めてしまうこともよくあった。
だが今回は、暫し考えたあとに組んだままの腕を解き一つ大きく頷くと下方にあるジタンの目を真っ直ぐに見据え返した。この歪みのない視線はどこまでも、いつものウォーリアオブライト。

「確かにあの列車には謎が多く、私も気にはかけていた。我々が再び呼び集められた理由を探り、この世界の謎を解く―と言う目的に繋がるかもしれない。いいだろう、行ってみるとしよう」

純粋な好奇心から乗ってみたいと言う話をしている彼らとウォーリアオブライトの目的は随分と乖離しているようにも思えるが、ウォーリアオブライトがこと仲間達を護ることに対しては一本芯の通った考え方を持っているにも関わらずそれ以外のことに関してどこかずれている事を考えれば想定の範囲内の返答ではあった。
ウォーリアオブライトの許可が出れば、あとは仲間達皆で準備をして賑やかに目的地へと向かうことになる、のではあるが…大体このやり取りを見ていると誰かひとりは言うことがある。そして今日もまた。

「…しかし、いつも思うんだが」
「ん?」

ジタンが嬉しそうに他の仲間を呼びに行った姿を見ていたライトニングがぽつりと呟き、隣にいたフリオニールは微かに首を傾けながらそのライトニングを見る。まるで、言葉の続きを待つように。
フリオニールの短い相槌にライトニングの視線はフリオニールのほうへと移り、そして…言葉を選ぶかのようにゆっくりとではあったがライトニングは言葉を繋ぐ。

「ああいうやり取りを見ているとなんだか親子のように見えてくる…あいつの役回りは私たちを束ねるだけでなく父親代わりとでも言うか」
「…それさ、俺もそう思うし…この前セシルも言ってた。その前はクラウドが」
「なんだ、皆同じ事を考えていたのか」

意外だとでも言いたそうなライトニングの言葉が可笑しかったのか、フリオニールは微かに笑いながら頷いてみせた―勿論、彼ら自身はそんなやり取りをしている自分たちの姿を見て他の仲間が「あいつらほんと仲いいなー」と思っていることになど気付いてはいない。


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