からっぽの世界から-3/4-
「フリオニール…私はここだ。大丈夫だから…」
ゆっくりと目を開け、定まらない思考のまま首を動かそうとするが目の前には何かがあって見えているものがなんなのかは全く分からないし、しっかりと固定されているようで首が上手く動かない。
しかし、まるで自分を包み込むようなどこか優しい柔らかさに何故か奇妙な安らぎを感じていた。その優しさはまるで先ほど、自分を包み込んだ光のようで。
ぼんやりとしたままの思考回路がようやく、自分の名前を呼んでいるのがライトニングの声だと特定してそこからフリオニールの意識は急激に覚醒し始める―そして気づいた、首が動かないのは後頭部にライトニングの腕がしっかりと回されているからで―自分はまるで子供のように、ライトニングの胸に顔を埋めるような状態で抱きしめられているのだということに。
「っ、ら、ライト…!?」
「…目を覚ましたか」
そこで自分を抱きしめていた腕が解かれる。心配そうな眼差しでフリオニールを見つめていたライトニングの手はゆっくりと伸ばされ、フリオニールの額に触れると浮かんでいた汗を拭うかのようにその掌を動かした。
まだ状況が飲み込めず、ただぼんやりとライトニングの方を見ているフリオニール―その視線の意味が分かったのか、ライトニングは微かに息を吐くとゆっくりと身体を起こした。
「どんな夢を見ていたんだ…随分とうなされていたようだったが」
「…うなされてた…?そうか、あれは夢だったのか…」
フリオニールは大きく安堵の息を漏らす。そして身体を起こすと、ライトニングと向かい合うようにその場に座りなおす。自然と膝を抱えてしまったのは、先ほど見ていた夢の中で感じていたどうしようもない孤独感がまだ心の中に焼き付いているからだろうか。
流石にそれでライトニングも気づいたのだろう、どこか心配そうにも見える眼差しでフリオニールをしっかりと見つめている。膝を抱え、抱えた膝に半分顔を埋めたような状態のままでフリオニールはライトニングをしっかりと見つめ返し―そして、ぽつりぽつりと言葉を繋ぎ始めた。
「…何もない、真っ暗闇の中で…声も出なくて、何かをしようとしてるのにそれが出来なくて、出来なかった瞬間に全部忘れていくんだ。俺は何も持ってなくて、ただずーっとその暗闇の中を歩いてた。それで」
「それで…?」
「歩くことしか出来ないのに歩いてる最中に足元が崩れ始めて、必死で立とうとしてるけどそれも出来なくて…そのまま堕ちそうになったところで目が覚めた」
夢の内容を思い出すようにぽつりぽつり、言葉にしているだけなのに何故だか夢の中で感じていた深い絶望に再び苛まされるようで―自然とまた抱えた膝に顔を埋める。
ライトニングは暫くそのまま黙っていたが…やがて、その腕が優しくフリオニールの背中を抱き寄せた。
自分の身体を抱きしめ、あやすように軽くぽんぽんと背中を叩くライトニングの掌にフリオニールは驚いたように顔を上げる…すぐ近くにあったライトニングの表情はどこか優しくて、抱え込んだ絶望も孤独感もその眼差しが静かに溶かしていくような不思議な錯覚を覚えていた。。
「…普段ならしっかりしろとでも言ってやるところなんだが…今日は特別だ」
「ライト」
「お前にそんな顔をされていたんでは私が落ち着かないからな」
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