からっぽの世界から-2/4-






洞窟の前で火を熾し、焚き火を囲みながら他愛のない話に花を咲かせ、そしてやがて多少の疲れが出たのかそろそろ休もうかと言う話になる。
先にスコールとバッツが休むことになり、その間はフリオニールとライトニングが周囲を見張っている―その間は特に何が出ると言うこともなく、いつものように薪に残った火が爆ぜるのをぼんやりと眺めながら何もこないのを確かめるかのように洞窟の入り口を守るでもなく見守っている、ただそれだけの時間が流れていた。

そして、夜明けまで数時間と言うところでスコールがのそりと洞窟から姿を見せる。

「そろそろ交代の時間だろう…バッツはまだ寝ているから適当に叩き起こせ」
「…スコール、結構酷いこと言うな」

冗談めかして笑いながら、フリオニールはスコールと交代するように洞窟の中へと足を進める。確かにそこには毛布に包まったまま眠りこけているバッツの姿があって、フリオニールは毛布の上からバッツの身体を揺すり―それに伴いバッツが半分だけ目を開けて、焦点の定まらない視線のままフリオニールの姿を捉えた。

「起きろ、バッツ。交代の時間だ」
「んー…あと5分…」
「あと5分、じゃない。起きろ、私たちだって疲れているんだ」

寝ぼけ眼のままのバッツに無表情のまま歩み寄ったライトニングはその身を包んでいた毛布を引き剥がし、バッツの身体は勢い良く地面に転がされる。
ごつっと大きな音がした時にぶつけたのだろうか、うつ伏せの姿勢から額をさすりながら立ち上がったバッツは恨めしそうな視線でライトニングを恨めしそうに睨んでいる―とは言え、自分がすんなり目を覚まさなかったのが悪いことだって当然分かっているのだろう、表情は変えないまま大きく息を吐くと服についていた砂埃を払ってゆっくりと立ち上がった。

「仕方ないな、じゃあおれも行ってくるけど…二人きりだからって変な事しようとか考えるなよ」
「考えるわけないだろ、そんなこと」

バッツの発言に呆れたような口調でそう返しながら、恐らくスコールが使っていたのであろう畳まれた毛布を手に取るフリオニールに対して意味ありげな笑みを浮かべながらバッツは洞窟の入り口の方へと足を向けた。そしてそのバッツの背中を見送ってから視線を合わせたフリオニールとライトニングが浮かべていたのはやはり苦笑い。
しかし、それぞれ手に持った毛布を広げると身体を横たえ、その毛布に包まると一瞬だけ視線を合わせた。

「じゃ、おやすみ」
「ああ…ゆっくり眠るんだぞ」

…バッツに変な事をしようと考えるなと言われて即座に否定した理由は何も、仲間が側にいるからとかそんなことだけではない。
何せ彼らだってひずみの中で戦い、そして歩いていた―身体を横たえればすぐに眠れそうなほど疲れていたのだ。
実際にそのまま目を閉じることで―隣にライトニングがいることなどすぐに意識から消えてしまい、フリオニールの意識はすぐに闇に融け、ゆっくりと眠りの世界へと堕ちていく―


何もない。
真っ暗な中、フリオニールの視界に映るものは何もない。
足元は平らに均され、歩くことは出来るが何処に向かって歩けばいいのかさえ分からない。

―ここは?

呟いたはずなのに声が出ない―その理由すら理解できず、フリオニールはただ口をぱくぱくと動かしているだけ。
何かを言おうとしたはずなのに、その言葉は声になる前にかき消されてしまう。そして自分の記憶からも―今、自分は何を言おうとしていたのだろうか?
とりあえず、何もないこの場所から抜け出さなくてはとフリオニールはゆっくりと足を進めた。何処へ向かえばいいのかすら分からないままに―
しかし、歩いても歩いても続くのは暗闇だけ。
自分が何処に向かっているのかすら分からず、ひたすらに歩き続ける。
そう言えば、身につけているはずの武器がない。他にも持っていたはずのものを何も手に持っていない。
本当に何もない空間、あるのはフリオニールの姿だけ。仲間もいない、目に見えるものもない。そんなからっぽの世界の中をフリオニールはただただひたすら歩き続けている。
何かをしようと思ったはずだったのに、試すために身体を動かすことすら出来ない。そうしているうちに何をしようとしたのか、それを忘れてしまう。
誰かを呼ぼうとしてもやはり声が出ない、そうこうしているうちに名前を呼ぼうとしている「誰か」が誰だったのかすら思い出せなくなっていて。
歩き続けていれば答えが見えてくるかと思っていたフリオニールだったがその期待を裏切るかのようにからっぽの世界は何処までも続く。立ち止まろうにも、立ち止まったところでその先に何もないのは分かっていてそうすることは許されずフリオニールはただただ歩き続けることしか出来ない―
その瞬間。
それまではしっかりとした感触で足元を支えていた地面が音もなく崩れ始める―
バランスを崩し、何とか持ち直そうとするフリオニールだったが足元が崩れるのはそれよりも更に早く、どんなに姿勢を立て直そうとしてもそれが追いつかない。
ついに立っていることすら出来なくなりしゃがみ込んだと同時にはっきりと地面が崩れ、フリオニールの身体はまっ逆さまに堕ちて行く―!

その瞬間。

 “フリオニール”

耳元で囁くように自分の名前を呼ぶ声…その声を確かめるかのように、フリオニールは重力に引かれもがきながら必死で手を伸ばす…


←Prev  Next→





SHORT STORY MENU / TEXT MENU / TOP
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -