私とワルツを-4/6-
その話を聞いていたジタンがにぃっと笑いを浮かべ、そしてフリオニールを指差して軽くウィンクしてみせる。冗談めかしたその仕草が妙に似合ってしまうのもまた、ジタンの凄いところといえばそうなのかもしれないが―フリオニールの側には呑気にそんなことを考えている余裕はない。
「踊れるって言うか…踊ったことがある、ってだけだぞ」
「決まりだな。おあつらえ向きにフリオニールならパートナーもいるし。誰かライト呼んでこいよ」
「…別にライトじゃなくてもいいような気がするんだけど、まあいいや。オレ、ライト探してくる」
残された言葉に、こいつも気づいてないのかと言った風情の呆れ顔を浮かべて一行はそんなヴァンの背中を見送る。
そしてその視線は再びフリオニールの方へ。その視線から逃れるようにフリオニールはふいと天井の方へと視線を向けた。
まあ、ライトニングのことだから…クラウドのようにあっさりと断ってはくれるだろう、そんなことを考えているフリオニールと仲間達の耳に届いたのは3人分の足音。
目をやればそちらには、ヴァンに先導されてライトニングとユウナが姿を見せたところだった。
「一体何なんだ急に、それもこんなところに皆で集まって。私は今ユウナと…」
「まぁ、その辺の話は後から聞くから。とりあえずライト、フリオニールと一緒に踊ってくれ」
唐突にジタンにそんなことを言われ、ライトニングは不審そうに眉根を寄せてそのジタンを見ている。
張本人のライトニングから言葉が出ないのを察知したのか、ライトニングの一歩後ろにいたユウナがきょとんとした表情のままながらも先に口を開いた。
「ライトに踊ってって、随分急に不思議なことを言い出すんですね」
「ああ、バッツがピアノ弾いてくれるんだ。で、それがワルツだから折角だから誰かに踊ってもらおうって話になったってとこ」
「でも、それでどうしてライトとフリオニールに?」
ジタンの答えを聞いたはいいものの先ほどまでこの場にいなかったユウナからしてみればその疑問も当然と言うところだろう。
そのやり取りを見ていたティーダはユウナの方へと歩み寄り、にぃっと笑いながら言葉を繋ぐ。
「フリオニールがワルツ踊れるから、ってだけなんだけどな」
「ワルツを踊れる?フリオニールが?」
ユウナに向けられていたはずのその言葉を聞きとめたライトニングは、ティーダと…フリオニールを交互に見る。その視線に気づいたのか、フリオニールもライトニングの方へと視線を送っていた。
「そうそう。皇帝ブッ倒したお祝いのダンスパーティで、仲間の女の子と一緒に踊ったんだよな」
「それは事実だけど、踊ったことがあるってだけで別に…」
「わかった、踊ればいいんだろう」
ティーダの補足の言葉を遮ったフリオニールの言葉を更に遮ってライトニングはあっさりとそう言い放つ。
その言葉に、仲間達はいっせいにライトニングの方を見て口々に囃し立てる―一番驚いていたのは、きっとフリオニールだった。
驚きのせいか言葉が出ないフリオニールにつかつかと歩み寄ると、ライトニングはどこか不機嫌そうにも見える表情のまま手を差し出した。
「え、ライト」
「言っておくが私はきちんと踊れるかどうか分かったものじゃない…お前がリードしてくれ」
ライトニングの発言に気圧されるかのように頷くとフリオニールはライトニングの右手を握り、左手をライトニングの腰の辺りに回す。一気に距離が近づいて、なんだかそれが気恥ずかしくて…フリオニールは無意識のうちに目を逸らしていた。
しかし、肩に添えられたライトニングの手のぬくもりを感じて―ライトニングが踊ると言っているのだから自分はそれをリードしなければならないと思いなおし、真っ直ぐにライトニングの瞳を見つめた。
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