私とワルツを-3/6-
「スコール、お前元の世界でダンスパーティで踊ったって言ってただろ。お前踊れよ」
「…ひとりで踊るなんて御免だ」
思い出したように言った言葉をあっさりと却下してみせたスコールに、それもそうかと小さく呟いてジタンはその場にいる一行を見回す。
他の仲間達も皆、その場にいる者を見ているが、それぞれに思うところはあるようで…ヴァンを見ていたラグナが視線をすぐに違う方向に向けたり、そのラグナを見たものも数人はいたが先ほど足が攣ってまたうずくまっていた姿を思い出したのかやはりすぐに目をそらしたり。
「ねえ、ティファが踊るんじゃダメなの?クラウドと一緒に」
「興味ないね」
ティナの提案は言われた本人のティファではなくクラウドがあっさりと却下。あまりにも予想通りの展開に、一行からは苦笑いすら漏れたりもして。
その空気を跳ね飛ばすかのように、ラグナがティーダの方を指差す。
「そんじゃティーダは?ユウナなら喜んで一緒に踊ってくれそうだけど」
「えー?無理っス無理。オレ、ワルツってガラじゃないし」
大袈裟にぶんぶんと手と首を振ってみせたティーダに、何故かそれもそうかと納得する一行。
その動きに安心したのか、ティーダがひとつ大きく息を吐いていたりもしたがそれに対して誰かが何かを言うわけではなく、その後に続いたヴァンの言葉の対象は既にティーダからは離れていた。
「ネギ坊主がティナと…はダメか、男の方が背が低いんじゃなんか今ひとつ絵にならないな」
「うん…とりあえずヴァン、あとで話があるから」
不愉快そうに眉根を寄せたオニオンナイトの一言に再び一行から漏れる苦笑い。
体格が小さいことを気にしているというのにこんな言い方をされてはオニオンナイトが怒るのも当然なのだが、恐らくティナの次くらいにはオニオンナイトと一緒に行動している時間が長いはずのヴァンがそんなことを言い出したのだから苦笑いが漏れるのもむべなるかな、といったところだろうか。
椅子に座ったままのバッツがぐるりと仲間達を見渡し、そしてある一点で視線を止める。そのままのんびりと口を開いた。
「セシルとカインは?セシルは王様なんだろ、それに騎士団団長なんてやってたんだったらワルツ踊る機会なんかもあったんじゃないのか?」
「…俺とセシルが2人で踊ったところで笑い話にしかならんだろう」
「まあ、それもそうか」
あっさり納得するのなら言わなければいいのに、と全員が思ってはいたものの、バッツにそこまで言っても詮無きことだというのは誰もがわかっている。
その時にふと、セシルがいつもの如く微かに首を傾げてみせ、そして思い出したように一言。
「ダンスパーティで踊ったことがある、って言えば…フリオニールもそうだよね」
「え、そうなの?私その話初耳」
セシルの言葉にティファがぱっと表情を輝かせ、敢えて黙っていたフリオニールはそこで気まずそうに目をそらした。
そう、言い出してしまえば確実に自分が踊ればいいと言われるのは分かっていたから黙っていたのに。だがセシルには悪気がないのが分かっているのでそれをどうこう言うこともフリオニールに出来るわけがなく。
「ああ、そう言えば言ってたっスね。奪われた祖国を取り返した時にダンスパーティに呼ばれて、仲間の女の子と踊ってる最中にまた事件が起こったって話」
「じゃあ、フリオニールはワルツ踊れるんだ」
思い出したかのようにティーダがそう呟き、ティナもその話に乗ってきらきらした目でフリオニールのほうを見ている。
ティーダとティナだけではない。仲間達の視線は一点、フリオニールのみに集中している―セシルが話を出した瞬間に予想できていた展開ではあったがあまりに予想通り過ぎて、フリオニールの口からは自然と溜め息が漏れていた。
SHORT STORY MENU / TEXT MENU / TOP