私とワルツを-2/6-






「今ピアノの音がしたんだけど…ってまさか、バッツが弾いてたの?」
「嘘、バッツピアノ弾けるんだ?」

ピアノの方に駆け寄ってきたオニオンナイトは驚いたように椅子に座ったままのバッツを見上げ、ティファはきらきらとした瞳でバッツを見ている…相変わらず椅子の下に座り込んでいるクラウドの表情がどこか面白くなさそうに見えるのは果たして気のせいか、それとも。
オニオンナイトやティファの後ろにはティナやセシル、ティーダの姿も見える。彼らもピアノの音色に誘われてここへやってきたというところだろうか。

「私も多分ピアノ弾けたんじゃないかな、って思うの。元の世界のことはあんまり覚えてないけどなんとなくそんな気がする」
「こう言っちゃナンだけど、僕も多分ピアノだったら弾けるよ。弾いたことがあるの、なんとなく今バッツのピアノ聞いて思い出した」
「随分とピアノが弾ける奴が多いようだな」

座り込んだままピアノを聴いていたスコールだったが、立ち上がるとピアノが弾けると名乗りを上げた3人の顔を順番に見ている。

「多分皆練習すれば弾けるようになるとは思うけどな。おれ、最初ドレミファソラシドもおぼつかなかったし」
「その状態からアレだけ弾けるようになるってのも大したもんだ」

立ち上がりながらそんなことを言ったラグナの口調はどこか懐かしそうにも聞こえる。彼ももしかしたらピアノに対して何か思うところがあるのかもしれない―誰もがそんなことを思いはしたが、敢えてそれを口に出すことはなく。
その代わりに、同じように立ち上がったヴァンはバッツの座った椅子の背もたれに手をかけ、上から覗き込むようにバッツの顔を見ている。

「なあ、バッツ他の曲も弾けるのか?」
「んー、楽譜があったら、多分」
「楽譜だったら倉庫探したらあるんじゃねえかな。オレちょっと行ってくる」

会話が終わるか終わらないかのうちに駆け出したジタンの背中を見送った一行は、数分後にジタンが紙束を持って戻ってきたのをそれぞれに笑顔で出迎えた。
バッツの隣に楽譜らしき紙束を抱えたまま移動したジタンは、上から何枚かぺらぺらとめくっていく。タイトルを見て、これはピアノ用じゃないとかなんとか言いながら何枚かを更に隣にいたスコールに手渡し、残った楽譜をまたぺらぺらと上からめくって内容を改めていたが不意に顔を上げ、バッツに問いかけた。

「色々あるけどどんなのがいいんだ?」
「とりあえず何かひとつ貸して」

手を差し出したバッツに、ジタンは一番上に載っていた楽譜を1枚手渡す。バッツはそれをちらりと見ると確かめるように最初の数小節を弾いてみせる…特徴的な三拍子から、その楽譜の中身がワルツであることに数人が気づいたようだった。
バッツは一度指を止めると、その視線は再び楽譜を追って頭から演奏を始める。流石に初見の曲であるためかところどころ指運びが怪しい部分はあったが、それでも明らかに失敗と分かるレベルの失敗をしないまま何とか最後まで弾ききってみせたバッツに一行は再び惜しみない拍手を送る―
拍手を送られた側のバッツは相変わらず自慢げな顔を浮かべていたがまたすぐにピアノに向きあう。

「もう1回弾いたらもっとちゃんと演奏できると思うんだけどな」
「ねえ、折角もう1回弾くなら…ワルツだったらこう、曲に合わせて踊ってる人とかいたら素敵かも、って私思ったんだけど」

思いついたように手を叩いたティファに一行の視線が映る。
ああ、とか確かに、とかそんな呟きがそれぞれから漏れたところで、クラウドがぽつりと呟いた。

「だが、踊るとして…誰が?」

あまりにも当然なその疑問に、全員の言葉がそこで止まる。同意はしてみたものの、流石にそこまでは考えていなかったというところだろうか。


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