私とワルツを-1/6-






その日一行がいたのは、劇場艇プリマビスタ。
イミテーションがいなければ格好の休憩場所であり、また劇場として使われていただけあって一行にとっては格好の遊び場となる。
そんなこの船が近くに停泊しているのを見つけたときは必ず立ち寄るようになっていた。
そして、この日もまた―

「…で、お前は舞台にピアノなんか運んできてどうしようってんだ」

数人がかりで倉庫から運び出されたピアノを見ながら、運んでくれと仲間に頼み込んだ張本人であるバッツを見上げるジタンの姿がそこにあった。
簡単に運んでくれなんて言われはしたものの、これだけの大物を運ぶのはさほど容易な事ではない。結果として、ピアノの周りでは運ぶのに借り出されたフリオニールとクラウドとヴァン、ラグナにスコールにカインの6人が肩で息をしながらへたばっている。
今日は日ごろの戦いの疲れを忘れるために、とここに遊びに来てはいるわけだが、ピアノを運ばされることになった6人は遊びに来てそんな重労働をさせられるとは思っていなかっただろう。

「全くだ。それで運べと頼んだ張本人のお前は椅子しか運ばないんだからな。見ろ、ラグナの奴ピアノを置く時にまた足が攣ったんだぞ」

代表するかのようにカインが呟き、足を押さえてうずくまっているラグナはうんうんと頷いているがバッツは聞いていない。ただ、楽しそうにニコニコと笑っているだけだったがピアノの前に自分が運んできた椅子を置くとそこに座り、鍵盤に向き合ってひとつ咳払いをし…へたばっている仲間達に笑顔を向けた。

「大したことじゃないんだ。でも…」

そして確かめるようにいくつか鍵盤を叩くとひとつ頷き、両手を鍵盤に添えて指を動かし始める―
バッツのことだから、2つ3つ鍵を叩いたところで「やべっ失敗した」なんて言い出すんじゃなかろうかと思いながらその様子を見ていた一行ではあったが―バッツの指は流れるように鍵盤の上を滑り、的確な鍵を叩く。それに併せて流れるのは軽快な行進曲。
全員が言葉を出すことを忘れ、ピアノを弾くバッツの姿をじっと見つめている。今ここでピアノを弾いているのは本当にバッツだろうか、などと余計なことまで考えながら、ピアノを弾くバッツの姿と流れるピアノの音色に耳を傾けていた。
やがてバッツがその手を止めて、曲が静かに終わりを告げる。満足げに笑うバッツに向けて、ピアノの周囲にいた一行は自然と手を叩いていた。

「ご清聴ありがとうございました、っと。うん、おれやっぱピアノ弾けるわ」
「…何の確認だよ、そもそもバッツがピアノ弾けるなんて初耳なんだけど」

目をまん丸にしたままのジタンがそう呟くと、手をたたきながらもピアノ周辺でさっきまでへたばっていた仲間達もうんうんと頷いている。
言われたバッツのほうは得意げな表情を浮かべながら鼻の下を擦りながら、やはりどこか自慢げに胸を反らしている。こういうところを見る限り、どうにもバッツが20歳だとは思えないのも無理はないのかもしれない。

「このピアノ見た時に元の世界にいたときにちょこちょこ練習してたのをなんとなく思い出してさ。一体何処で弾いてたのかなんて覚えてないけど、ピアノの弾き方は身体が覚えてるみたいだ」

先ほどとは別の曲をワンフレーズだけ弾いてみせたバッツは相変わらずの得意満面な表情を浮かべている。
そしてそのピアノの音色を聞きつけたのか、他の場所にいたらしき仲間達も続々と舞台のあるほうへと集まってきた。


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