戦うさだめと青い空-1/3-






その日、一行は誰が名づけたか知らないが「次元城」と皆が呼んでいる城にいた。
戦士達とモーグリ以外は存在しない世界であるにも拘らず、この世界には時々誰が何のために作ったのかわからない建造物や乗り物などがある―誰が乗っているのかも今ひとつ良く分からないまま走り続けている列車を見たときは皆、「あれは一体何処から何処に向かって何のために走ってるんだ」と首を捻ったものであった。
そしてこの場所も、城であるにも関わらず誰が治めているのかも良く分からないままこの場所に聳え立っている―ここに来るたびに、バッツが「見覚えがあるような気はするけどあんまり思い出せない」と言うので恐らくは元々バッツのいた世界にあったもの―ともすると、治めていたのはエクスデスだったのかもしれないと考えている者もいた。
だが、時折イミテーションが陣取っていることもある他は基本的に危険もあまりない。そのため、イミテーションがいなければこの場所は一行にとっては格好の休憩場所となるのであった。

「やーそれにしても、不思議だよな」

大きく伸びをし、どういう原理でか空中に浮いている尖塔を見上げジタンがぽつりと一言。その隣に腰を下ろそうとしていたスコールはジタンの言葉の意味が分からないのか小さく首を捻る。

「不思議って、何がだ」
「こんなに綺麗な空が見られる場所、この世界では珍しいだろ。何でここだけは雲に覆われてねえのかなと思って」

ジタンの言うことも確かに尤も。この世界の空は常に薄い雲に―メルモンド湿原やエルフ雪原のような、雨や雪の多い地域では分厚い雲に覆われている。
だが、この城にやってくると何故かその雲が晴れ、いつでも青い空が望めるのだ―どうしてそんなことになっているのか、それを明確に説明できる人間は誰もいなかった―だがそれでも、この場所が、ここから見える青空が彼らにとっては貴重なものであると言うことに間違いはなくて。

「まあでも、たまにはこうやって太陽に当たらないと腐っちゃうっスよ」
「そうそう、ティーダの言うとおり。たまには綺麗な青空を楽しむのも悪くないと思うぜ」

芝生の生えた辺りに寝転んでいるティーダとラグナはそんなことを言って空をぼんやりと眺めている―戦いの最中、このようにほんの暫しの平和な時間を過ごすことが疲れ果てた戦士達の心を癒すものなのかもしれなかった。
目的の見えないまま続けなければならない戦いの中、ほんの少し心を休めるときがあってもいい―それは誰もが同じように思っている。
それを分かっているからこそ、休息の時は皆思い思いの時間を過ごしている。今だけは、続くイミテーションとの戦いも行く先の見えないこの世界のことも忘れて構わない―誰もがそう思っている。
―それは勿論、このふたりも。

「…何をしている」

丁度城の建物の最上層、やはり芝生張りになっている屋上で寝転がっていたフリオニールを見下ろすように、丁度その顔の横辺りに立つライトニング―フリオニールはその声に反応してそちらに視線を送ると、顔を赤らめながらがばりと身体を起こした。
その様子が不思議だったのか、ライトニングは一度首を捻って起き上がったフリオニールの隣に腰を下ろした。
フリオニールはと言うと、そんなライトニングの方を何故か見ることが出来なくて…視線をただ、足元の芝生の方に送っている。

「寝転がっていたかと思ったら突然起き上がって、一体どうしたって言うんだ」
「いや、今その…スカートの中が見えそうに」
「スカートの中どころかその中身だって散々見ておいて今更慌てる必要はないだろう」

可笑しそうに笑いながらそう言ってのけたライトニング。幾度も肌を合わせ、その身体を重ねている以上その言葉は確かに尤もなのだが、やはりそれはそれこれはこれ。だがその辺の微妙な男心と言うものは―ライトニングが女性である以上、説明したところで分かってはもらえないだろう。
そんなことを考えているとはきっと知らないのであろうライトニングはじっとフリオニールのほうを見つめている。それは先ほどの、「何をしている」と言う問いかけの答えを待っているかのように。
それに答えるかのように、フリオニールはちらりとだけライトニングを見て…そして、再びごろりと寝転がった。
その動きを不思議そうに見つめているライトニングに、やはりこれだけでは答えにならないと思いなおしたのかぽつりとだけ呟いた―視線は再び、ライトニングから外れて澄んだ大空へ。

「何してる、って言われると…空を見てたとしか言いようがないな」
「ああ、確かに青空が見えるところはこの世界では珍しいからな」

ライトニングは暫くは首を上に傾けて空を見上げていたが、やがてフリオニールと同じように芝生に横たわり、同じように空を見上げる態勢をとった。
横目でちらりとそんなライトニングを見遣ったフリオニールだったが、すぐにまた空に視線を戻す―その姿は見えないまでも、腕を伸ばせば届く距離にある愛しい気配を感じられれば今のフリオニールにはそれだけでよかったから。
そこから暫くは、ふたりの間に言葉はない。フリオニールはただゆっくりと流れる雲を視線で追っていたりして―
遠くからは仲間達の声が聞こえてくる。いつものように賑やかなジタンとバッツの笑い声、誰かに対して怒っているらしきオニオンナイトの怒鳴り声、内容までは聞こえないが途切れ途切れに聞こえる誰かの話し声―そんな中、このゆったりとした時間を堪能しているのかもしれなかった。


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