キオクノカタチ-3/3-






「この世界にいる限り、元の世界の記憶がないことなどさほど重要ではないんだということに改めて気付いた」
「それ…俺の元の世界の話を聞いててその結論が出た理由が知りたいな」

ライトニングの行動と言葉が繋がらないのかフリオニールは不思議そうに首をひねる。
勿論フリオニールからすれば当然の疑問だろう、ライトニングはひとつ頷いて言葉を続けた。

「例えばお前は私と違って随分元の世界の記憶を取り戻している…それを前提として聞くがお前には元の世界に恋人はいなかったのか?」
「…は?」

出てきた言葉が今までの話題と全く繋がらず、フリオニールの表情はなんとも言いがたい怪訝そうなものに変わる。

「…いたら多分俺はこうして君と一緒にいることはないと思う」
「だがもしかしたら肝心のそこだけをぽっかり忘れている可能性もあるわけだ」

フリオニールの表情に困惑の色が濃くなる。ライトニングの聞きたいことが全く分からない、とでも言いたそうに。
それでも困惑の表情のままライトニングの言葉に対して、言葉を選ぶように答えを返す…

「ないとは思う…けど、でもそう言われると確かに絶対にないとは言い切れない…な」
「でもお前は私を愛している…これは間違いないな?」
「間違ってるわけないだろ。俺は誰よりもライトを愛してる、それは断言できる」

自分で放っておいてその言葉が恥ずかしくなったのか、フリオニールは一度ライトニングから視線を外す。
しかしライトニングはそれに構うことなく言葉を繋いでゆく…

「つまりそう言うことだ。元の世界の記憶がどうであれ、今私はこの世界にいる―この世界の仲間たちを信頼しているし、この世界で出会ったお前を愛している。元の世界の記憶がどうこうより、今この世界で何を思い何を感じて生きるかの方がよっぽど大事だということに気付いた、だけだ」
「…ライト」

ライトニングの言葉にフリオニールの視線がその瞳の方へ戻ってくる―ひとつ頷いて、ライトニングは更に言葉を紡ぐ。

「それに、私には確かに元の世界の記憶が殆どないが…その分、フリオニールと作っていく沢山の記憶を留めて置けそうだから、な」
「そう言われると元の世界の記憶がある俺は殆どライトの思い出を残せないみたいじゃないか」

不満げにそう呟いて、フリオニールは躊躇いがちにライトニングの手に自分の手を重ねる。

「ライトがそう言うなら…俺は元の世界の記憶を持ったままでも、君に負けないくらい沢山の記憶を留めて置く」
「ああ…そうしてくれると嬉しい、な」

重ねられた手を柔らかく握り返しながらライトニングはフリオニールを真っ直ぐに見つめた。
元いた世界の記憶なんて、今はさほど重要ではない。
それよりも何よりも今は目の前にいるフリオニールの…緩く握り合わせた手のぬくもりのほうがずっとライトニングにとっては大切なものだと信じられたから。



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