ひとことだけの魔法-4/4-
近づく距離、少しずつはっきりとしてくるお互いの姿。
自然と早足になるフリオニール、黙って立っていたがその姿がはっきり見えるようになると待つのももどかしそうに駆け出したライトニング。
ランタンの頼りない明かりであってもはっきりとお互いの姿を認めることが出来る距離まで近づいて、互いの顔を見つめあい―先に口を開いたのは、ライトニング。
「…おかえり」
「ああ…ただいま」
ほんの短い言葉と、交し合った微笑み。
それは遅い時間まで戦いに出ていたフリオニール達をねぎらうために向けられたものと、遅い時間まで自分たちの帰りを待っていたライトニングへの感謝を込めて向けられたものと―
「いいよなーフリオニールは、こういうとき待っててくれる人がいてさ」
冗談めかしてバッツがそんなことを言い、そうだそうだとラグナもその尻馬に乗る。苦笑いを浮かべながらもライトニングはフリオニールの背後にいた仲間達に視線を移した。
「皆待ってはいたんだが明日も早いからと先に眠ってしまったんだ。起きていたのは私だけだが待っていたのは私だけじゃない…それとティナ」
「私?」
「あいつから伝言だ、『お疲れ様』と、『待っていられなくてごめん、今日はゆっくり休んでね』らしい」
伝えるだけは伝えて、ライトニングは帰ってきた仲間達に背を向けて5人分だけ残された夕食の鍋の方に向かう。
「夕食だが今から温めなおすからその辺に座って待っていろ」
すぐに背後で足音が聞こえて―振り返ると想像通り、そこにあったのはフリオニールの姿。
その表情には疲れを滲ませていて、それでも…彼の言いそうなことは想像がつく。そして、ライトニングの想像通り。
「俺も手伝うよ」
「いや、いい。疲れているだろう、少し休んでいろ」
「…手伝いたいんだ。と言うより、ライトと一緒にいたい」
微かに照れたように笑みを浮かべるフリオニールに、ライトニングも微笑みを返す。
たったそれだけのことが、それぞれの―疲れていた心も心配していた心も優しく包み込み癒していく。
それを確かめ合うことで、何故か心の絆がほんの少し強くなったような気がして―
「ありがとう、待っててくれて」
「誰かが起きていないとお前達に冷めたままの食事を取らせることになると思ったからな」
冗談めかしてそんな風に返しながらも、待ち焦がれた声がすぐ近くで聞こえることの幸せを噛み締めながらライトニングは焚き火の跡に再び薪をくべ、魔法でそこに火を灯した。
こんな風に言ってもフリオニールはちゃんとその真意を分かってくれると思っていたからこそのその言葉―ふと見れば、フリオニールは幸せそうに笑っている。伝わったのだな、とそれだけで分かって―ライトニングはスープの入った鍋を焚き火の上にかけ、ただその笑顔を見つめていたのだった。
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