ひとことだけの魔法-3/4-






椅子のかわりに岩に腰掛け、脚を組んだ姿勢のまま太腿のあたりに肘をついて掌に顎を乗せた姿勢のまま、ライトニングはぼんやりと北の方―ひずみの方向を眺めている。
仲間達は皆、もうテントへと入ってしまった。
オニオンナイトだけはどこか名残惜しそうにしていたが、早朝の見回りに当たっている為か心配そうな表情のままテントに入っていったのが妙に印象に残っている―
その時に彼がライトニングに託して言った言付けがある以上はまだ眠るわけには行かない。
フリオニールの帰りを待っているだけではなく―伝えなければならないことがあるから。

「まだ起きているのか、ライトニング」

野営地の周囲を見回っていたクラウドが、座ったままじっとしているライトニングの姿を見つけて…彼らしくもなく驚いたように声をかける。
ちらりとだけそのクラウドに視線を送り、ライトニングはこくりと一つ頷いてみせた。

「あいつらが帰ってくるまでは眠る気にならない」
「…気持ちは分かるが無理はするな」

短くそう答えたクラウドはそのまま立ち去っていく―が、もしもひずみに向かった中にティファがいれば彼も今の自分と同じ事をしたであろうことは想像に堅くない。
そんなことをぼんやりと考えながら、既に暗闇しか見えない北の方向に目をやる―その時、ライトニングの目に映る小さな光。
次第に近づいてくるその光が恐らくランタンから放たれたものだと言うことにライトニングが気づくのに然程時間はかからなかった。

「あ…」

小さく声を漏らし、ライトニングは立ち上がる。
少しずつ、視界の中で大きくなる光…未だはっきりと認識は出来ないが薄らぼんやりと照らされた姿。
歩くのに伴ってひらりと揺れる長いマントを視界に捕らえて気づく、その姿はライトニングがずっと待ち焦がれていた…―


今日の野営地はひずみからそこまで離れた場所でもなかったが、疲れと空腹のせいかその短い距離を歩くのにも妙に時間がかかるように思えて。
視界に漸く捕らえた野営地は既に暗く、人の気配は感じられない。

「ってか、誰もいなくないか?暗くなってるし」
「マジかよ、ちゃんと晩飯残ってるかな」

ランタンを手に先頭を歩くフリオニールの背後で、バッツとラグナがそんなことを話している。
それに呼応するかのように続いたのはティナの言葉―

「でも、随分遅くなっちゃったね。皆心配してるかな」
「…心配する前に寝てそうな気もするけど」

苦笑いを浮かべながら、遠くに見える野営地のほうに視線を送りフリオニールはぽつりと呟いた。
次第に野営地が近づいてくる、そこに人の気配は感じない―皆既に眠りについているのではないかと言う言葉の根拠はそこで、それゆえにその言葉にはフリオニール自身は気づいていないが薄くはない落胆の色が秘められていた。
しかし…既に暗くなった野営地に再び目をやったフリオニールの目に、誰かが立っている姿が見える。

「…誰かいる」
「見回りに当たっている誰かじゃないのか」

短くそう呟いたスコールの言葉も確かに尤もだが見回りにしてはじっと立ったまま動かず、こちらを待っているようにすら見えるのが解せない。
そんなことを考えながらフリオニールはもっと良く見えるようにとランタンを翳して目を凝らす―未だ薄暗くて、シルエットでしか判別できないその姿…だが、フリオニールにははっきりと分かった。
身につけているものと、そしてその立ち姿だけでしか判断できないが、それでもそれはきっとフリオニールがずっと心の支えにしていた…―


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