ひとことだけの魔法-2/4-






仲間達が空腹を訴え、夕食にしようと言う時間になってもひずみに向かった者達はまだ戻ってこない。
確かにひずみは相当深いものであるらしいとは知っているが、遅すぎはしないだろうか―他愛のない話をしながら食事を楽しんでいる仲間達の話題にもそんな言葉が上り始める。
だが、その話題も何かのついでと言ったような風情でありまだそこまで心配するような時間ではないと誰もが思っているせいか表情に焦りなどが浮かんでいる者はいなかった、が…

「…遅いね、ティナ達」

ライトニングの隣に腰掛けてスープを啜っていたオニオンナイトが、器から口を離すと一言ぽつりと呟いた。
誰に向けた呟きでもないように聞こえて、はっきりと自分に向けられている―それに気づかないほどライトニングは頭が悪いわけではない。
ちらりと、隣にある背の低い姿に視線を送るとどう答えるべきかと数瞬だけ悩み、そして―言葉を紡ぎ始める。

「ある程度の深さのあるひずみの場合、早く帰って来過ぎるのも問題だろう。進めなくなったが故に戻ってきた場合だってあるんだから」
「…確かにそうだけど」
「ティナが心配なのは分かる。だが、帰りを待っている私たちがあいつらを信じないで誰が信じると言うんだ?」

ライトニングのその言葉に、オニオンナイトははっとしたような表情を浮かべ、そしてすぐに深く頷いた。そのまま短く呟く、そうだよね…と。
彼がライトニングにその話をしたのは、きっと立場が同じであることを知っているから。ライトニングもまた、愛する人を待つ立場だと知っているからこそライトニングに訊ねたのだろう。
だから、同じ立場にいるからこそ今のライトニングは答えられることを答える。ただそれだけ。
…オニオンナイトもそれで納得したのか、大きく頷いてみせた。

「そうだよね…僕達が信じないと」
「分かったら早く食べてしまえ。それとも嫌いなものでも入っていたか」
「ライトまでそんなさぁ…子ども扱いしないでくれない?」

苦笑いを浮かべて再びスープに口をつけたオニオンナイトを見て小さく笑いながら、ライトニングもまたスープを一口啜る。
既に微かに冷め始めているスープに、ひずみに行った面々が戻ってきたらやはり温めなおさなければならないな…などと思いながら、ライトニングは大きく息を吐いた。


「そろそろ腹減ってきたなー。今日の夕飯なんだろ」

混沌の烙印への行く手を阻むイミテーションを破壊し終え、仲間達を振り返って放たれた冗談めかしたバッツの呟きの中にも微かに見え隠れする疲れの色―流石に、そんな冗談に言い返すほどの元気はそろそろなくなってきたようだった。
イミテーションそのものは然程の強さではないものの如何せん量が多い。ただでさえ長い行程となる深いひずみの中で、既に一行の疲れはピークに達していた。

「あとどのくらいあるんだろうな」
「…さっきの階層が6か7か8、って言ってただろ?あの場所が6階層目だとしたらここが9階層目になるんだ。もし7階層目なら10階層目、8階層目なら11階層目だけどそんな深いひずみは見たことがない」

スコールの何気ない呟きに対して、視界の先にある烙印に目をやりながらフリオニールは指を折る。
ティナも同じように指を折って頷いているあたり、先ほどのラグナの様子を見て自分も数えようと思ったのはフリオニールだけではなかったらしい。

「つまり、あの烙印が出口の可能性もあるってわけだ…頑張ろうぜ、みんな」

励ますようにそう言って笑うラグナの言葉に、一行は大きく頷き…行く手を阻むものがなくなった烙印へと向けて足を進めた。
そして混沌の烙印の前にたどり着くと、全員が頷きあって武器を手に取る。

「これが最後であることを祈って…せーのっ!」

ラグナの声にあわせ、フリオニールとバッツは剣を、スコールはガンブレードを大きく振りかぶり、そして振り下ろす。ラグナはマシンガンの引き金に手をかけて指を引き、ティナは短く詠唱をして氷の魔法を烙印に向けて放つ。
何かが砕け散るような音と、そして―光に包まれる一行の身体。
フリオニールはその眩さに思わず目を閉じ、そして…目を開けた彼がいたのは、ひずみの入り口。
夜も更けすっかり暗くなってはいたが、間違いなく今までいたひずみの中と違う空気を確かめて…大きく安堵の息を吐いたのは誰だっただろう。もしかしたら自分だったのかもしれないが、フリオニールはそんなことにはもう気づかなかった。

「…出口だった、みたいだね」

表情に疲れを滲ませたまま、ティナが小さく微笑みを浮かべる…自然と、一行の顔にも笑顔が浮かんだ。
確かに深いひずみではあったが、それなりに収穫めいたものはあった。以前にショップで見かけたが交換するには素材が足りないと言われてしまった武具に必要な素材も含めた数々のアクセサリが彼らの手にはある。

「とりあえず帰ったら分配考えないとな…と言うか、出てきたとなったら俺も腹が減ってきた」

フリオニールの言葉に一行は小さく笑いながら、急ぎ足で歩き始める。ひずみから南、仲間達の待つ野営地のほうへと―


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