その愛のかたち-2/3-






「これ、死に際に託されたものなんだ。そのときに…」

そこでフリオニールは言葉を止め、目を伏せた。その表情に滲んでいる辛さは…きっと、彼の記憶の中に眠る元の世界での暗い記憶が浮かび上がらせているもの。
おぼろげにそう判断は出来るものの、止めようと言う気にはならなかった。止めたら止めたで気になるだろうことは目に見えていたし、それに…やっぱりフリオニールの話の続きは気になるもので。
目を伏せたままのフリオニールの言葉は続く―その声はやはりどこか暗いが、話を止めたがっているようには思えない。逆に考えればもしかしたら、誰かに聞いてもらいたいと―そう思っているのではないか。ライトニングはぼんやりとそんなことを考えながらフリオニールの言葉に耳を傾けている。

「その人には婚約者がいて、その人に対して…愛していると、そう言ってたんだ。だけど…死に行く者の愛の告白など困らせるだけだってそう言われて…結局伝えられなかった」

伏せたままの視線は相変わらず、自然と指輪に向けられている。
元の世界のことを思い出している時のフリオニールはいつも、どこか悲しそうな表情を浮かべている。ライトニングがそれに気づいたのはいつだっただろうか。
何故だか今のフリオニールを放っておくことが出来なくて、ライトニングは自然と腕を伸ばす。マントや鎧を通しても、掌で触れたフリオニールの背中は微かに暖かい。
ライトニングの掌の感触に気づいたのかフリオニールは顔を上げ、視線をライトニングのほうに移した。その表情はまだどこか悲しそうにも見えるが、微かに落ち着いたようにも見えた気がするのはどうしてだろうか―

「今、その婚約者だった人は違う形での幸せを掴もうとしているんじゃないかって俺は思ってる。だからもう、言うことは出来ない…その幸せを壊すことは出来ない」

そこでフリオニールは再び視線を落とす―視線の先にあるのは、右手に嵌まった指輪。
表情に浮かぶのは先ほどまでの哀しみとは違う、どこか…後悔しているかのように見えるその横顔から、ライトニングは目が離せなくなっていた。

「ただ…俺が伝えなかったことは本当に正しかったのかな、って…本当に伝えなくて良かったのかなって、ふと思うことがあるんだ」
「フリオニール…」
「もしも俺があの人の立場だったら、って考えたら…何が正解だったのか時々分からなくなってさ」

目を伏せ、じっと指輪に視線を送ったままのフリオニールの横顔…ライトニングはそこから視線が離せないまま、そっと掌でフリオニールの頬に触れた。
かすかなぬくもりを確かめるように暫く触れて、その頬を軽くぴたぴたと音がする程度の強さで何度か叩いた。
しっかりしろ、とでも言うように。言葉の代わりに何度かそうしてフリオニールの頬を叩いてから、真剣な眼差しでフリオニールの横顔を捕らえる―
今のフリオニールの話がどこか、自分に重なるところがあって。そう考えたら、どうしてもライトニングは―言わずにはいられなかった。

「知らないままの方がいいこともある」
「でも…」

自分を捕らえたフリオニールの視線を真っ直ぐに見つめ返してから首を横に振り、ライトニングは再び口を開く。
その言葉はフリオニールを諭す為に告げられたもののようでいて…それでいて、自分自身に向けられているものだと言うこともライトニングははっきりと気づいていた。

「先の戦いでお前は私を忘れていた…もしもお前が私のことを覚えていたらそれはお前の足枷にはならなかったか?」
「そんなことは…」

反射のようにフリオニールは否定しかけて、すぐに押し黙る―それが答え。
フリオニールのその表情はどこか悔しそうにも、悲しそうにも見えて―きっと、否定し切れなかった自分に対して何か思うところがあったのだろう。
それは分かっていたがそれでもライトニングは更に言葉を続ける。答えに迷い、黙ってしまったフリオニールの分までライトニングの言葉は真っ直ぐに放たれてゆく。

「ないとは言えないだろう…私はそうなるのだけは嫌だった。だからお前には忘れて欲しかった…側にいられないのに愛だけを押し付けるのはただのエゴだからな」

今にして考えればあの時の選択に後悔の余地などない。だが、それでフリオニールを傷つけてしまったのではないかとライトニングが思い悩んでいたのは事実だ。
そのことも踏まえて考えれば、それが正解かどうかはともかくとして―ライトニングの中にははっきりとした答えが見えていた。


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