その愛のかたち-1/3-






ある日の野営地、いつもの如くテントの設営を終えて各々自由時間を過ごしている頃。
フリオニールは仲間達の輪を離れ、ぼんやりとどこかを見ていた。
その指先は何かを思うように、右手に―元の世界にいたときから嵌められていた指輪に触れている。
何かを懐かしむような、思い出すような…それでいて、どこか悲しそうなその表情。
その異変に他の仲間が気づかなかったわけではないが、それでもいつも前向きなフリオニールがそのような表情を浮かべていることでどこか声をかけづらい空気に感じられていたのは事実で…
実際セシルなどは心配そうにフリオニールを見遣っていたし、バッツは一度どうしたんだ、なんて声をかけてはいたがフリオニールは何も答えなくて…
そんなフリオニールから答えを引き出せるものがいるとすれば、それはたった一人。

「何かあったのか、フリオニール」

他の仲間が声をかけづらそうにしている中、ライトニングは何の迷いもなくフリオニールに歩み寄るとその隣に立ち至極あっさりと声をかけた。
心配そうにフリオニールの方を見遣っていた仲間達は皆、ライトニングの行動に対して意味ありげな笑みを浮かべたり安心したような表情を見せたりしている。
ライトニングに任せておけば大丈夫だと、皆当たり前のように思っているのだろうか。
声をかけられた側のフリオニールはすぐに顔を上げ、そこにいたライトニングの姿を見て取ると微かに微笑んで見せた。

「ああ、ライト…いや、大したことじゃないんだ。ただちょっと思い出したことがあって」

そう言うとフリオニールは視線を上空へと移す。その手は相変わらず、右手の指輪に触れたまま。
思い出したこと、が指輪に関連しているのだろうということ位は流石にライトニングにも分かる。自然と、ライトニングの視線はフリオニールの右手へ―
薬指の指輪には青い石が、小指の指輪には赤い石が嵌められているその指輪は、ライトニングから見れば古めかしいと感じるデザインではあった。
しかしフリオニールの骨ばった手には良く似合っているとも思う―だが、その指輪についてそう言えば詳しい話を聞いたことがなかったな、とも考えていた。
ただそんな考えはおくびにも出さず、フリオニールが「思い出したこと」を話し始めるのを黙ったまま待っている。
自分に関係のあることであれば無理やりにでも話させることはあるが、自分に関係のないことならフリオニールが話したくなるまで待つつもりでいた…そう考えているのが伝わったのか、フリオニールは小さな声でぽつりと呟いた。

「俺、たまに思うことがあるんだ…あの時の選択は間違ってたんじゃないか、って」

フリオニールの左手は相変わらず指輪に触れている。嵌められた石を撫でてみたり、本体部分を指先で触ってみたり…その裏にある感情がライトニングには未だ読み取れない。
そもそもが、「フリオニールが間違えたかもしれないこと」の存在と指輪がどうにも繋がらず、ライトニングは首を捻っていた。

「この指輪を託してくれた人の話、したことあったっけ」

いや、と呟いてライトニングは首を横に振る。
大切そうにしているから誰か大切な人からの贈り物だったのではないだろうかと薄らぼんやりと考えてはいたが、それが一体誰でフリオニールにとってはどういう存在なのかまで考えたことはなく。
フリオニールは仲間には恵まれていたようだし、戦争で実親を失ったとは言え家族と呼ぶべき存在だった仲間もいたというような話は聞いたことがある。その中の誰か、なのだろうか。
元の世界に恋人はいなかった、とフリオニールは明言しているのでそう言う存在ではないだろう、程度のことしかライトニングには判断がつかずにいたのだ。

「その人は…戦争の最中に死んじゃったんだけど、さ」

指輪に触れていた手を離し、フリオニールは掌を合わせて指を絡める。それでもその視点は指輪からは外されることはなく―
未だフリオニールの中に残る、元の世界での戦乱の記憶。それが指輪の話とどう繋がるのか、今のライトニングには全く想像もつかない。
何かを思い出しているのだろう、フリオニールの言葉はそこで暫し止まる。だが、それでも決意したかのようにゆっくりとその声が響いていた。


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