キオクノカタチ-1/3-
…神々の戦いは13回で終わり、その後に何の因果か再びこの世界に集められた者達。
元々いた世界に関しての記憶は大半を取り戻しているものもいれば相変わらず忘れているものも、さまざまに存在する。
例えば。
「ところでセシル、あいつは元気にしているのか?」
「ああ、元気だよ。カインにも会いたがってたぜ」
「…お前、無自覚に無茶を言うな。今更どの面を下げて会いに行けと言うんだ」
倒木に並んで腰掛けているセシル、そしてその背後に立っているカインがそんな話をしている。
「何の話?ねえ、あいつって誰?」
ひょっこりとオニオンナイトが顔を出し、セシルの隣に腰掛ける。
セシルは少し横に詰めてオニオンナイトが窮屈にならないようにスペースを空ける。
「僕の奥さんの話だよ」
「奥さん!?セシル結婚してるの!?」
オニオンナイトは驚いたようにセシルとカインを交互に見る。セシルとカインはほぼ同時に頷き、オニオンナイトが信じられないと言う風に首を横に振る。
「と言うかお前知らなかったのか」
「カイン、自分がセシルの親友だって自覚した上で言ってるんだよね?カインが知ってるからって全員知ってるなんて思わないでよ…ねえセシル、奥さんってどんな人なの?」
「そうだなあ…とても優しくてそれでいて気丈で美しくて。とにかく僕にはもったいないくらいの素敵な女性だよ」
「…セシルがゴルベーザ以外の自慢するとこ初めて見たかも」
驚きのあまり目がまん丸になっているオニオンナイトを見て、カインが小さく笑った。
「別にセシルも隠していたつもりはないんだろう?」
「まあね、聞かれてたら言ってたし。スコールには話したしね」
「ええー、じゃあ引き換えにスコールの話聞いたりしてない?」
興味津々と言ったオニオンナイトと、スコールの話は聞いていないまでも自分の元いた世界の話をするセシル。時々カインが相槌を打ったり、セシルの記憶が間違っているところを訂正したりしている…
そしてその様子を遠巻きに眺めているライトニングの姿があった。
「何?ライトもセシルの奥さんの話が気になるの?」
「いや、そう言うわけじゃないが…」
ティファに話しかけられて、ライトニングは首を横に振る。
「少しだけ、羨ましかった…と言うのが正しいか」
「フリオニールはライトの知らないところでライトの自慢してるような気がするけどね」
「…いや、そっちが羨ましかったわけじゃなくてだな」
ティファの口から飛び出した的外れな発言にライトニングはひとつ息を吐き、視線をそのまま空へと送った―
そう。自分には元いた世界の記憶が殆ど残っていない。
無論、記憶が残っていないのは自分だけではない。例えば今セシルの話を興味津々と言った様子で聞いているオニオンナイトは自分の名前すら思い出せていない。
バッツは覚えているのはチョコボと仲間だったじいさんの事だけだしじいさんの名前も覚えてない、なんて断言していたし、ティナも仲間がいたような気はするけどどんな人がいたかは覚えていないなんて言っていた。
つまり記憶が残っていないのは自分だけではないとは言え…時折、一抹の寂しさを覚えることがあった。
「何か切欠があったら思い出すかもしれないが」
「…ああ、元いた世界の話かぁ」
ようやっと意図がつかめたというようにティファは微笑み、そしてライトニングの肩をぽんぽんと叩いた。
「記憶なんてどこで戻るか分からないよ?」
「そりゃあ、お前は随分あっさりと記憶が戻ったようだったが」
ティファも確か、先の戦いの時には自分と同じように殆ど元の世界の記憶を残していなかった。
しかし、こうして…神々の戦いが終わったはずのこの世界に喚ばれた時、ティファはクラウドと巡り合うことで少なくとも彼に関しての記憶はしっかりと戻ってきた…ようだった。
「そう言えば、カオスの戦士だった人たちにはライトと同じ世界から来た人はいないみたいだったね」
「もしかしたらいても思い出せないだけかもしれないが…しかし、私を覚えている者がいないようなところを見るとそうなのかもしれないな」
呟くライトニングの肩を、ティファが再び―今度は励ますようにぽんぽんと軽く叩く。
その笑顔はいつもの彼女らしく明るい。こういうときにライトニングは思う、仲間の笑顔に救われている…と。
「まぁ、いいんじゃないかな。私だってクラウドのことくらいしか思い出せてないけど特に困らないし、と言うかクラウドのことだけでも思い出せてよかったって思ってるし」
「…そう言う考え方もあるな。しかし」
「ティファ、今日はお前が食事当番じゃなかったっけ?」
話を遮るようにヴァンが顔を出す。その言葉に思い出したようにティファは口に手を当てた。
「あ、そうだった!じゃーねライト、あんまり考えすぎちゃダメだよ」
「ああ…ありがとう、ティファ」
手を振りながら離れていくティファに小さく手を挙げ、そしてライトニングは再びセシルたちの方に視線を移した。
「僕もリヴァイアサンに飲み込んで貰おうかなあ」
「でも、単に僕たちの世界とは時間の流れ方が違うってだけだからすぐに成長するってワケじゃないみたいだよ」
一体何の話だ、と思いながらライトニングもその場を後にする。
そしてもう一度空を見上げる―
そう言えば、フリオニールはどうなんだろう。そんなことを少しだけ気にしながら。
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