知らぬも言わぬもそれぞれに-1/5-






それは…神々の戦いを終わらせた戦士達が再びこの世界に呼び集められて、まだ日が浅い頃の話。

「なーんか、ティーダお前…こっちに帰って来てから毎日楽しそうだな」

ティーダが鼻歌を歌いながらボールと戯れている、その丁度横あたりに生えていた木の枝に脚を引っ掛け逆さになった体勢でジタンが不意に訊ねる。
確かに、今のティーダは機嫌よさそうに見えるし…元々明るい彼の表情が、なんだかかつての戦いの頃より更に明るくなっているように思っていた。それはきっと、ジタンだけではなく。
しかし言われた側のティーダはただ、不思議そうに首を捻るだけで。

「そっスか?自分では自覚ないけど」
「どーせアレだろ、ユウナが一緒にいるのが嬉しくてしょーがないんだろお前」
「あー、それはあるかも」

あっさりと言い放ったティーダの言葉に、ジタンは苦笑いを浮かべながらひょいと器用にぶら下がっていた枝を蹴り、地面へと着地する。
その位置は丁度、ティーダの真正面辺り。

「…お前はいいよなーほんと。こちとらやっと再会できたってのにまた離れ離れだぞ?」
「それでもほら、還った先に待っててくれる人がいるってのも悪くないと思うっスよ」
「それは分かってんだけどさー…やっぱりちょっとばかり寂しくなるのも人情ってもんじゃね?」

ジタンの視線はそこでティーダから外れ、遠い空へ向かう。
その先に見えているのはもしかしたら、彼が元いた世界に残してきた愛する人の姿…なのだろうか。

「ま、セシルもスコールも同じような状況だけど文句言ってねえのにオレだけこんな事言ってちゃいけないんだけどさ」
「そうそう。それにほら、一緒にいてくれたり待っててくれたりする女の子ってのがいないヤツもいるんだから贅沢言っちゃいけないっスよ。バッツとかフリオニールとか」

明るくそう言ったティーダの言葉に、ジタンは首を捻った。
その表情は明らかに何かを訝しんでいる。ティーダの側はその表情の意味が分からず、ぽかんとした顔のままジタンを見ていることしか出来ない。
その表情にジタンの表情には呆れが浮かび始める。一体何があったというのかティーダには皆目見等がつかないが。

「…ティーダお前…それ本気で言ってるか?」
「本気も何も、オレ何もヘンな事言ったつもりはないけど」
「もしかして知らないのか?オレはてっきり聞いてるもんだとばっかり…ああ、知らないならいいや、うん」

それだけ言って立ち去ったジタンの態度に、ティーダはかすかな違和感を覚える。
今、立ち去り際のジタンは明らかに何かを誤魔化すような態度だった―一体自分は何を知らなくて、何を聞いていないと言うのだろうか。
首を捻るが心当たりはない。その直前までジタンとしていた話を思い返しても、ヒントになるようなものは何も思い浮かばない…

「ま、いっか」

考えても分からないものは仕方ない。ティーダは一度今の会話を忘れることにして、再びボールと戯れ始めた。
だが、そのジタンとの会話はうっすらとした違和感をティーダの中に残すには充分すぎるものだった。


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