心を濁す弱ささえ-3/4-






真っ直ぐに敵から放たれる魔法をひらりとかわし、その態勢から腰に差した杖を抜き、短く詠唱すると氷の魔法を放つ。
一瞬敵が怯み、距離が出来た隙に…フリオニールの身体がきらりとかすかな光を纏った。

「…この血が滾るっ!」

抜かれた武器は緋色に染まり、普段彼が手にしているものとは違うとそれだけでライトニングにも分かる。
一体何が起こったのか、それが瞬時に判断できる程度にはライトニングだって戦いには慣れている―
普段とは違う武器の力を借り、己に眠る力を呼び起こし極限までその力を高める。ライトニングにだって出来ないことはない。
今の、窮地に追い込まれているフリオニールがその手段をとるのはごくごく自然なことのようにも思えた。
攻撃させる隙を与えないように斧を投げ、それを避けて近づいてきたのを確かめたフリオニールの横顔が微かに笑っているように見えたのはライトニングの気のせいだろうか?
距離を詰められたところでフリオニールは背中に刺した槍を抜き、大きく振り回す。それに巻き込まれた敵の身が、槍の刃に裂かれ柄に打たれていく。
そしてフリオニールは素早く槍を背中に差し直すと、素早く斧と剣を抜いて飛び上がった。

「決まりだっ!」

斧と剣は的確に敵を攻め立て、その身に負わせた傷を増やしてゆく。しっかりと傷つけて行く中で、敵はフリオニールの攻撃に耐え切れなかったのか大きく身をのけぞらせる。
そしていつもの如く両手の武器を大きく振り払って敵を吹き飛ばした―致命傷には微かに届かないまでもしっかりとした痛手を負わせているのが見ているだけでも良く分かる。
あと一歩のところまでは来ている、だがそのあと一歩を追い詰めるまでにフリオニールがもしも攻撃を受けてしまったら…ライトニングの胸中に去来する不安は拭い去られることはなく。
だが―その刹那、ライトニングはフリオニールの姿を見て我が目を疑った。

「どういう…ことだ…?」

傷ついていたはずのフリオニールの身体。その傷が淡い光を放ち、ゆっくりと消え始める。
斬傷は塞がり、青痣や火傷の跡は消え去ってそこには普段どおりの、日に灼けただけのフリオニールの素肌があって―この距離からでは何がどうなってそうなったのか判別はつかないが、先ほどまでぼろぼろに傷ついていたフリオニールと同一人物とは思えないほどの回復にライトニングはそれ以上言葉を出すことは出来なくて。
ライトニングが背後でそんなことを考えているとは夢にも思っていないのだろうフリオニールは、背中の弓を抜いて即座に構える。
炎に包まれた弓から放たれた矢は弓と同じように炎を纏い、それはまるで彼自身の…燃えるような心をそのまま体現しているかのようで。

「この一撃にかけるっ!」

放たれた矢が敵の身体の真っ芯を捉え、大きく吹き飛ばされる。
しかしそこでフリオニールは手を止めない。緋色を纏う武器は彼の周りを舞うように動き、フリオニールの意思に沿うかのように、心を持っているかのようにその言葉に従って敵の身体を切り刻む。


「槍よ!」

命じるかのようなフリオニールの叫びに槍が動いて敵の身体を刺し貫いた。
その次に短剣が、斧が、杖から放たれる魔法が、剣が敵を襲い傷をつけていく―
命のないはずの数々の武器が、手を触れることもなくフリオニールの意思に添って動く。それは奇跡なのかそれともフリオニールにしか分からない何らかの力が働いているのだろうか。
ライトニングにはそんなことさえ分からない、だがそれでも―間違いなく、今のフリオニールは先ほどまで傷ついていた時とはわけが違う。

「これで終わりだ!」

フリオニールが再び構えた弓が一瞬大きくなったような気がしたのは―気のせいだろうかと思いながら、それでも間違いなくその弓に彼が普段使っている武器が次々と番えられて行くのを見たときにそれが見間違いでないとはっきりと悟った。
番えられた武器はフリオニールが弓を引き、その手を離した瞬間に敵に向けて飛ばされていった。
次々と敵の身を襲う武器、そして完全に動かなくなる敵の身体―弓を引いた姿勢のままその様子を窺っていたフリオニールは、己の勝利を確信したのかそこで再び弓を背負いなおした。


←Prev  Next→





SHORT STORY MENU / TEXT MENU / TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -