心を濁す弱ささえ-1/4-






無限の迷宮、ラビリンス。今日も今日とてライトニングはその中にいた。

今日は運良く中に入ってすぐにフリオニールと合流することができ、更なる深みとまだ見ぬ宝、そして他の仲間を探して2人は進む。
他の仲間ともなかなか合流できないこともあるというのに、今回は本当に幸運に恵まれたとしか言いようがない―

「でも、すぐライトと合流できてほんと良かった。結構心配だからさ、俺と合流する前にライトが倒れたりしたらどうしようって」
「心配しすぎだ…と言いたいところだが、その心配は正直私もしないわけではないからな」

そんなことを言い合いながら、二つの足音は静かな迷宮の中をどんどんと奥深く進んでいく。
多少傷つくことはあっても、この迷宮にいるとどうも傷を癒す力が高まるのか…普段よりも傷の治りが早い気がする。他の仲間も同じ事を言っていたので、それはあながち気のせいと言うわけでもないのだろう。
それに、側にフリオニールがいる…それだけでどれだけ厳しい戦いになろうとも戦い抜ける、ライトニングはそんなことを考えていた。
フリオニールが傷つけばその傷が癒えるまでライトニングが戦い、ライトニングが傷つけば傷を癒すまでの間はフリオニールが戦う。
そうやって互いをフォローしあいながら進んでいくが、どうにも今日は他の仲間と合流が出来ず実質2人だけで戦い続けるほかになかった。

「これがこの迷宮の中じゃなかったら、ふたりっきりなんてめったにないなんて言って楽しめたのかもしれないけど」

冗談めかしてそんなことを言うフリオニールの表情にも疲れの色が浮かび始めている。自分では確認できないが、きっと今はライトニングも同じような表情を浮かべていることだろう。
運がよかったのは初めだけで、他の仲間をなかなか見つけることが出来ないのはやはり厳しい戦いになる―わけで。
手元にある、お世辞にも強力であるとは言いがたい武具を上手く組み合わせながら少しでも自分の力を出し切ることが出来るよう戦いを組み立て、2人だけでもどうにかするしかないと考えながら先へ進んでいく―
そんな状況でも敵は遠慮なく襲い掛かってくるし、襲われれば応戦しなければならない。
奥深く進むにつれて敵はどんどんと強くなっていく―いくら歩いていれば傷は癒えるとは言え、それが追いつかないほどの深い傷を受けることもある―
いつの間にこんなに傷ついていたのだろう、ざっくりと裂けたアームカバーやスカート、それに身体中に刻まれた斬傷や火傷の痕に視線を落としライトニングは深く溜め息をついた。
そのライトニングを心配そうに見遣っているフリオニールの身体にも、ところどころ血がにじみその身体にこびりついている。その下に青痣が覗いていたりして、彼自身もかなり深く傷ついていることは一目で分かるほどであった。

「…せめてポーションのひとつも手に入ればもっと楽になるのかも知れないが、この迷宮にはそれすら存在しないようだからな」

敵襲が途切れた合間、ライトニングはほんの少し身を休めるために壁に凭れ、天井を見上げる。
石造りの殺風景な回廊はただひたすらに続き、その先に見えるものなど何もない。
すぐに襲い掛かってくる様子はないが、その先にも敵の気配はまだ続いている―一度迷宮を抜けて態勢を立て直すことも考えたが、以前に何度か迷宮に入った仲間達と協力して作った地図を見る限り迷宮の出口はそれでも相当先にあるようでそれすらもすぐには叶わない。
戦いを続けている中で動き回ったせいか、汗ばんだ身体に衣服が纏わりつくような感覚がどこか気持ち悪くも感じる。
大きく息を吐いて額に手をやるとぬるりとした感触を覚えた。それが汗であると判別できたのは、触れたそこに傷がなかったからと言うたったそれだけの理由。
ライトニングのその様子を見て、フリオニールは心配そうに彼女の肩に手を添えた…その掌にもじっとりと汗が浮かんでいる。ずっと武器を握っているのだからそれも仕方がないことではあったが、その感触はいかに愛しい人のものとは言えあまり歓迎できるものでもなかった。
それでも自分を案じているフリオニールの気持ちが分かるが故にその手を振り払うこともしない、そんなライトニングを見つめている琥珀色の瞳に浮かぶ優しさ―いつも通りに見えながら、それでもやはり強い疲れに支配されているのは容易に見て取れた。

「少し休めばいい。俺が暫く前に立って戦うからさ」
「その台詞はもうちょっと自分の状態を良く見てから言え」

これ以上戦いを続け、これ以上傷つけば倒れてしまうかもしれない…今のライトニングにはフリオニールの姿はそんな風に見えた。
だが正直に言えば、ライトニングの限界が近いのもまた事実だった。つい先刻の戦いで、強かに吹き飛ばされ地面に叩きつけられたライトニングの身体はぼろぼろに傷ついている。
フリオニールに言えば余計な心配をかけてしまうと分かっていたからこそ口には出さなかったが、今のライトニングは立っているのがやっとの状態だった。


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