優しい時間-3/3-






「…急にどうしたんだ?」
「雨に打たれて身体が冷えているだろう。こうすれば、少しは暖まるかと思ったんだがな」

勿論、魔法で火をともして暖まる事だって可能ではある。自分だってフリオニールだって火炎の魔法を使うことは可能なのだから。
だが流石に木の下でそんな無謀なこともできない。それならば、フリオニールを暖めるのならこの方法が一番手早い…表向きはそう言うことにしておく、ことにした。
本当はただ、フリオニールに触れたかった。その存在をただ確かめたかった…それだけだった、けれど。

「そう言うところ、ライトは優しいな…やっぱり」
「…本当に優しいのはお前の方だろう」

フリオニールの肩に額を押し当てるような姿勢で、ライトニングはぽつりと呟いた。
思えば最初からそうだった気がする。弱さを見せまいと気張っていた自分が、フリオニールには全てを曝け出していたような。
真っ直ぐな優しさと、そして…詭弁のように呟いたライトニングの言葉を全て信じてしまうその純粋さの前で、自分の心を何かで覆うようなことはライトニングには出来ない。
凝り固まっていた意地も虚勢も全てが流れ去っていく。それは丁度、今大地を流れいずれ木々が力に変える行く雨水のように―流れて消えるのではなく、強がるだけでなく素直になることもまたライトニングにとっては必要なことなのだと教えてくれる。

「時々お前は私に対して優しすぎるんじゃないかと逆に心配になることもあるくらいだ」
「正直なところを言うと、優しくする以外にどうやって愛情表現したらいいのか分からないって言うのはあるけど」

恋愛経験の浅いフリオニールらしいその答えに、ライトニングはフリオニールの肩に顔を埋めたまま笑みを零す。
フリオニールは気づいていない―それ以外にもどんな時にも、どんな些細なことにもフリオニールの愛情を感じていることに。

「寧ろ、愛情表現が足りてないと思うのは私の方なんだが」
「俺は十分すぎるくらい愛されてるって思ってる…だって、さ」

フリオニールの手がライトニングの額に触れ、肩からその顔を引き離すように動かして自分の正面へと持ってくる。
額に触れた手はそのまま後頭部に回され、ゆっくりと顔が近づいてそこで唇が重なる―いつもより冷たいように感じるその唇の奥に秘めた暖かさを感じて、ライトニングはフリオニールの背中に回した腕の力を強くした。
長い時間ただ触れ合っているだけの唇が離れ、フリオニールは微かに照れ笑いを浮かべたままぽつりと呟いた。

「ライトの性格考えたら分かるよ。こうしてライトにキスしたり、それ以上のことが出来るのはライトが俺を愛してくれてるから…そうじゃなきゃ絶対こんなこと出来ないのは分かってる」

フリオニールの言葉には小さく頷いてみせ、ライトニングは再びその肩に顔を埋める…そして、フリオニールの腕がライトニングの背中に回った。
雨で冷やされた身体は冷たかったが、それでもライトニングを抱きしめるフリオニールの力がライトニングの心に確かなぬくもりを植えつける。

「それにしても、お前が優しさ以外の愛情表現を覚えたら私はどうなるんだろうな。お前の愛で溺死するんじゃないだろうか」
「そんなことで死なれたら困るよ、流石に」

冗談めかして笑い合いながら、互いの腕の中の愛しい存在を確かめ合っている瞬間。
雨音と共にその鼓動が耳に届く―フリオニールそのものの優しさと共に、その優しい時間がライトニングにとってはとても大切なもののように思えていて。
仲間達の所に帰らなければいけないのは分かっているが、それでも今はほんの少しでもこの優しい時間が続けばいいのにと思いながら、ライトニングは瞳を閉じた―


「…今出てったらオレたちただのお邪魔虫じゃね?」
「ああ…声をかけるタイミングを完全に外したな」

ふたりが抱きしめあっているのと丁度反対側で、2人分の雨合羽を持って迎えに来たジタンとスコールがそんなことを言いながら頭を抱えていたことは知らないままだったが…今はまだ、気づく必要はないのかもしれなかった。


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