御伽噺の恋-4/4-






「ライト、前にあの人に言ってただろ。御伽噺の住人みたいだって」
「ああ。だがそれがどうした?」

突然話が変わったように思えてライトニングは微かに困惑する。
確かに、ウォーリアオブライトにそんなことを言った様な記憶はあるが、それが今のフリオニールとどう繋がるのかがライトニングには今ひとつよく分からない―
勿論フリオニールのほうもライトニングのその困惑には気づいているようで、言葉を選びながらも話を続けてゆく。

「でも、俺が元いた世界ならあの人みたいな人は特に珍しくもないんだ。そう考えたら俺も君にとっては御伽噺の世界の人間みたいなものなのかなって」

フリオニールの表情は先ほどまでとはまた違った好奇心に彩られている―自分の恋人にとって、自分が御伽噺の世界の中の人間のように見えるという気持ちはどんなものなのか、ライトニングにはそこは分からないが。
それでも、目の前のフリオニールの表情に答えを返さないわけにはいかなくて―

「…正直に言えば、そう言う考えも全くないとは言い切れない…だが」

ライトニングは立ち上がり、自分を真っ直ぐ見つめるフリオニールの正面まで足を向ける。そして、両手でその頬に触れて顔を傾けさせ、自分の方に視線を持ってこさせた。
しっかりと瞳を見つめたまま、今のフリオニールに伝えたいことを言葉としてつむいで行く。それは本当にいつも通りのことで、ライトニングにとってはとても簡単でそしてとても大切なこと。

「私は生まれた世界が私とは全く違うことも含めてのお前を愛しているし、それに」

頬に触れた手をそのまま背中に回し、フリオニールを見上げたまま笑顔を向ける…
ほんの思いつきではあるが、これをフリオニールに言ったら笑われるかもしれない。そんなことをふと思ったりもする。
それに自分はそんな夢見がちではなかったはずだが、と少しだけ思いながらも、それでも思いついたことをどうしてもフリオニールに伝えたくて。

「戦うことしか知らなかった女と御伽噺の世界から現れた戦士。ふたりはやがて恋に落ちる…恋物語としては上出来じゃないか」
「…そんな綺麗な物かどうかって言われるとちょっと困るけど」

ライトニングの言葉に照れたような笑顔を浮かべるフリオニール。違う意味で笑われるかと思っていたがそんなこともなく。
その笑顔がどうしようもなく愛しくなって、ライトニングは腕を伸ばしバンダナの上からフリオニールの頭を軽く撫でる。
撫でられる感触にフリオニールは目を閉じて、返すようにライトニングの髪に触れる―今のライトニングの目に映るのは、いつものようにかすかな照れを表情ににじませたフリオニールの姿。

「恋物語はお気に召さないか?」
「いや、そうじゃないんだ…でも」

どう言葉にしていいのか迷っている様子のフリオニールをライトニングはただ見上げている…しかし、そうこうしているうちにフリオニールが自分の髪を撫でていた手が顎に添えられ、そして目を閉じてそっと顔を寄せてきた。
与えられる口付けが予測できたライトニングはそこで瞳を閉ざす―


「そう言えば…ライトは?」

衣裳部屋で見つけたと言うドレスを身に纏って、動きにくいけど素敵などと言っていたティファが、ふと思い出したようにそう問いかける。
同じようなドレスを身につけたユウナも、それを言われてあたりを見回す―が、ライトニングの姿はない。

「そういえば…どこに行ったんでしょうね、ライトもきっとドレスが似合うと思うのに」
「そういやフリオニールもさっきから姿見ないっスね。2人でまたどっかしけこんでんじゃないっスか?」

ユウナのドレス姿を綺麗だなんだと褒めそやしていただけのティーダがにししっと笑いを浮かべながらそう言い放つ。

「だとしたら…邪魔したら悪いよね」
「…ティナ、その発言…多分そこまで深い意味があって言ってるわけじゃないんだろうけどちょっと問題があるんじゃないかなぁ」

同じようにドレスを纏ったティナとその隣に文字通りナイトのように控えるオニオンナイトのそんな会話に、ティーダとユウナは顔を見合わせて笑う―
勿論このとき、彼らは自分たちの会話は冗談でしかないと思っていた、わけだが。

いつの間にか閉ざされていた大道具倉庫の扉の向こうで何が起こっていたのか―知っているのは、フリオニールとライトニングだけ。


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