御伽噺の恋-1/4-






劇場艇プリマビスタ。
時折空を飛んでいるところを見て取れる派手なその飛空艇の名はそう言うのだと自分たちに告げたのはジタンだった。

「なんでアレまでこの世界に来てんのかよく分かんねえけどあの船、元の世界にいたときにオレがいた劇団が使ってたんだ。すげえんだぞ、舞台があって観客席もあって」
「随分豪気だなぁ、飛空艇を劇場にするなんて」

飛空艇を見たような記憶が薄い、と言うバッツはそんな風に感心してみせる。同じように飛空艇そのものがさほど普及していない世界から来たフリオニールも感嘆の表情を浮かべていたりして。
たかだか飛空艇にそんな感心することか、と思ってしまう者達もいたりはするが、それが…さまざまな世界から呼び集められた彼らの面白いところ。
飛空艇ひとつ取ってみても受ける印象は違うものなのだなぁなどと妙に納得したりしていて。

「今誰が乗ってんのかイマイチ良く分かんねえけどさ、劇場としてだけじゃなくて仲間達で根城として使ってたから、色々面白いもんは置いてあるはずだぞ」
「根城って言い方はどうなの?」
「まぁ、表向きは劇団だったけど裏では盗賊団だったからなー」

眉を顰めたオニオンナイトに対してにぃっと笑いながらジタンは額に手を添え、遠くを飛ぶ飛空艇を見遣る。
彼自身にとっても思い出の詰まった船らしく、その表情はどこか懐かしいものを見るような優しさが微かに浮かんでいる―

「ま、もしも止まってんの見つけたら中に入ってみようぜ。オレ案内するからさ」
「止まってるのをうまく見つけられたらいいんだけどね」

そんなやり取りを聞きながら後ろで小さくセシルが笑っていたりして、その話はそのときは冗談のように思えていた…のだが。
それから数日して、劇場艇プリマビスタが本当に広い平野部に停泊しているのを誰かが見つけたときは皆、妙にテンションが上がってしまったりしていた。
遠巻きに眺めるだけでも相当の大きさのあるその飛空艇を見れば誰もが心浮き立つのも仕方がないことなのかもしれなかったが。

「とりあえずオレ、様子見に行ってくるよ。もしかしたら、オレの元の世界での仲間とかいるかもしんないし」

そう言ってジタンがいつものようにバッツとスコールを伴って様子を見に行ったのを見送った彼らの表情はどこか落ち着かない。
なんだかんだ言いながら、皆やはり「劇場として作られた飛空艇」には興味があるらしかった。
それからどのくらい時間が経ったのか、仲間達は皆そわそわとジタンたちの帰りを待っていたが、いつものように軽快に足音を立てながら帰って来たジタンとその背後を走るバッツに笑顔が浮かんでいるのを見る限り探索の結果は上々だったのではないだろうか、と思えた。

「お帰り。ねえ、どうだった?」

出迎えたティファに向かってジタンは大きくVサインを出してみせる。それはそれは、楽しそうな表情で。
ジタンのその様子に、仲間達の表情も一様に明るくなる―言葉を待つように皆の視線がジタンに集まり、ジタンはその視線を独り占めしたまま、若干芝居がかって見えるように体を動かしながら口を開いた。

「残念ながらオレの仲間だった奴らはいなかった。でも、中身とかはまるまる残ってたぜ。折角だからちょっと遊びに行ってみないか?」

にぃ、と浮かべられたジタンの笑みに、誰からともなく頷きあい…そして、ジタンが先導して一行は劇場艇プリマビスタを訪れることとなった。
劇場、と言う日常とはかけ離れた場所が楽しみだと言うのもあり、また自分の知らない世界に触れることができるのが楽しみでもあり…それぞれの表情が楽しそうなのはさまざまに理由があるようではあった。
そんな中、一行に混じって劇場艇プリマビスタへと向かうフリオニールとライトニングの姿もそこにはあったわけで。


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