迷宮の向こう側-2/3-






数人の仲間たちがひずみの解放に向かい、ベースキャンプ代わりにいつものテント設営を終えた一行はそれぞれてんでばらばらに時間を過ごす。
全員がバラバラに行動しているからこそ、悩めるフリオニールには逆に好都合と言うもので…ふと見つけた切り株に腰をかけてぼんやりと空を眺めている。
答えは出ない。
やはり自分ではライトニングと釣りあっていないような不安が拭えないし、でももしもライトニングにそんなことを言われたら傷つく…つまり今自分が考えていることは…
絵に描いたような堂々巡り、思考の中で迷い子になってしまったかのようにフリオニールの悩みには答えが見つからない―

「おい」
「ライトっ…っわぁっ!」

座ったまま空を眺めていた、その空の代わりに目の前に突然ライトニングの顔が現れてフリオニールは驚きのあまり背を逸らし…バランスを崩して切り株から転げ落ちる。

「…一体何をやってるんだお前は」

呆れたような笑みを浮かべながらもライトニングはフリオニールに手を伸ばし、その手を取ってフリオニールは体勢を立て直した。

「いきなり出てきたらびっくりするだろ、普通」
「他の仲間ならともかくそれを私に言うか、お前は」

フリオニールの言葉に小さく息を吐いたライトニングであったが、すぐにフリオニールが座っていた切り株の隣に腰を下ろす。
そのまま、切り株に座りなおしたフリオニールの顔をじっと見上げている。
自分を見上げる瞳が鋭くて、見つめられることには慣れているはずなのにフリオニールの背中に戦慄が走る―

「随分悩んでいるみたいだな」

投げかけられる言葉にフリオニールは首を横に振った。
知られてはいけない。思考の迷宮から抜け出せないことをライトニングに悟られてはいけない。
それを知られることは彼女を傷つける―
いや、と短い言葉が口から出たところでライトニングは大きく息をついた。

「お前はもうちょっと、自分が嘘が下手だと言うことを自覚した方がいい。あと、私はお前が思う以上にお前のことを見ているということも」
「…ライト」
「ついでに言うなら…そんな解りやすい嘘をつく位だから、悩みの内容を私に知られるのは困る。違うか?」

見上げる視線を見つめ返すことが出来ず、フリオニールは視線を逸らす―きっとそれが、何よりの答え。
ライトニングの溜め息が再び聞こえ、続いてどこか冷たくすら感じられる言葉がフリオニールの耳に届く。

「しかし私はお前にそんな解りやすく悩まれる方が困るんだ。さっきからラグナがうるさいんだ、悩める青年に愛の手を差し伸べてやれって」
「…ラグナらしいな」

無意識に笑いが零れる…そう言えば、先ほどから悩みすぎて笑うことを忘れていたような気すらする。
少し笑ったことで胸に支えていた何かが少し和らいだような気がして―更に言うならライトニングに対して嘘をつくことは出来ないとはっきりと悟って、フリオニールはぽつりぽつりと言葉を繋ぎ

始めた。

「…ライトは…俺の、さ。その、どこが良かったんだ?」

ライトニングと目が合わせられない。
だから彼女の表情は解らない―だが、一瞬の沈黙の後耳に届いた声はとても―優しくて。

「どこと言われても困るんだが…月並みな言葉かもしれないが、『全部』…だ」

ようやっと視線を向けることが出来た―ライトニングの頬はかすかに紅い。

「今のフリオニールの何が足りなくても、逆に何が余計でも駄目なんだ。今のフリオニールの全部が私には愛しい」
「…じゃあ、さ。本当に、俺でいいのか?」
「寧ろお前以外に考えられない」

きっぱりと言い放ったライトニングの瞳には一切の迷いがなかった。
いつものように自分の瞳を真っ直ぐに射抜く雷光。
その光に心を囚われているのは充分すぎるほど知っていたつもりだったが、今改めて思う―ただただ、目の前のライトニングが愛しい、と。


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