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「………ナマエ?」
ナマエが俺とマルコの間に座ってから数十分。いつもなら会話も弾んで酒も中々進むはずなんだが…今日は何故かかなり静かだ。始めはちゃんと会話もあったんだが、いつの間にかそれも止まっていた。気になって声を掛けてみたら、ナマエの頬は随分赤く染まって目も半分閉じかけていて………、
「ナマエ…酔ったのか?」
「…んー?」
「珍しいな、ナマエがそんなになるなんて…」
「そーかぁ?」
大分酔っ払っている様子ではあるが一応会話はちゃんとできるようだ。それでも、いつもよりは結構酔っているようで左右に揺れたり小さく鼻歌を歌ったりしていて、完全に酔っ払いといった感じである。
「気分は悪くないか?」
「ん、だいじょぶー」
へら、と笑って俺の腕にもたれてきたナマエにきゅんとする。俺の体格からしたらナマエはとても小さい。まるで小動物が俺に擦り寄ってくるようでかなり…かなり癒される。(大事な事なので二回言う。それと言っておくが俺は小動物が大好きだ。)
「……」
「…マルコ、羨ましいと思うならお前も自分から話しかければいいじゃないか」
「……」
無言で俺を睨むな酒瓶を握り潰そうとするな覇気を出そうとするな。仕方がないので、未だに俺の腕にもたれているナマエをゆっくりと離しマルコの方へ傾けてやる。それだけでマルコの顔が真っ赤に染まるものだから喉がくっと鳴った。
「っおい、ジョズ!お前いきなり何して…ッ!!」
「む…マルコ、うるさいー…」
「!わ、悪い…!」
耳元で大声を出されたせいでマルコから離れようとするナマエ。それを慌てて引き留めるために抱きしめたマルコ………おい、それはやりすぎじゃないか?
「マルコあったけー」
「…………!!」
「何かいい匂いもするー」
「…………!!!!」
「ふへ…くすぐってーよ」
「……ジョズ、俺を殴ってくれ…このままだとここでおっ始めそうだよい」
「よし、全力を込めて殴らせてもらおう」
ナマエは動物がじゃれ合うようにマルコに擦り寄り、それによってマルコはどうしていいのか分からなかったらしい両手を背中に回したり髪を撫でたりする。それが擽ったかったらしいナマエはもぞもぞ動いてマルコの首筋に額をぐりぐりと押し付ける。……このナマエの相手がマルコじゃなければもう少し微笑ましく眺めることができただろうが、流石に目がぎらついてきたマルコを放置することはできなかった。
ガンッ!という大きな音が甲板に響き、一瞬だけその場が静まり返った。が、暫くすれば何事もなかったように甲板は再びざわめきだした。
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頭には割れるんじゃないかと思うような痛み。右腕には柔らかい感触。俺は今、かつてないほどに葛藤していた。
「へへぇ…まるこぉ…」
真っ赤な顔に眠たげに細められた目。襲ってくれさぁ今すぐに!と言わんばかりの警戒心のなさに即行で襲いたい衝動に駆られる。しかし、先程ジョズにもらったかなり重たい一撃が俺のはち切れそうな理性をギリギリ繋ぎとめる。
「ナマエ……ね、寝るなら部屋まで送ってやるよい」
とにかく、少しでもこんな状態のナマエから離れるために部屋へ帰るよう促してみる。そうだ、早くナマエを部屋に戻して誰の目にも(勿論俺の目にも)触れないようにしなくては…!そう思って立ち上がる気配のないナマエを抱き上げようと手を差し伸べた。
「んー…?」
俺の手を見てきょとんと首を傾げたナマエ。酔っているせいで頭が回っていないらしい。
「そんだけ酔ってんなら歩くのも大変だろい。抱き上げてやっから」
手を伸ばせ、と続くはずだった言葉を遮ったのはナマエの手。いつものナマエであれば、恥ずかしいから嫌だとか歩けるから大丈夫だとか言って断るのだが、今回ばかりは本気で酔いすぎて頭が回らなかったようだ。ん、と素直に手を伸ばしてくるナマエはいつもの凛々しさはなく、女らしい可愛らしさがヤバい。なのに、
「おんぶ」
とか滅茶苦茶可愛いことを言うもんだから俺の意識は遠くへぶっ飛んでいった。
気付いたら朝になっていて、ナマエは自室で寝ていて、俺は何故かナマエの部屋の床で寝ていて、何故か頭には酷く腫れたたんこぶが出来ていた。
飲み物は確認してから
(昨日ナマエが飲んでた酒、"スピリタス"って書いてあるんだけど…)
(これを原液で飲んだのかよアイツ…!!)
※スピリタスとは、アルコール度数96度という恐らく皆さんご存知のアルコール度数世界最高のお酒です。ストレートで飲むことももちろん可能ですが、何かで割る飲み方の方が飲みやすいのではないでしょうか。管理人は飲んだことがありませんので分かりません(笑)
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