肌がチクリと痛むのは、きっとしつこいほどに纏わりついてくる彼の視線のせいだった。どうしてこんなことになってしまったんだろう、憤りと焦りのような感情がわたしを支配しているけれど、それももう遅い後悔でしかなかった。

「先輩の身体、熱いですね」
「そう、それじゃあ離してくれたらいいと思う」

とぼけた梓くんの台詞にイラッとして冷たく返してはみたものの、梓くんはめげた様子もなく「嫌です」と笑ってわたしのお腹に回している腕の力を強めた。
たまの休日に自室で課題を片付けていたのになんて様だろう。すっかり背中から梓くんに抱きしめられてしまっている状況に困惑する。そもそも職員寮になぜ梓くんが入れたのかとか、どうしてわたしを離そうとしてくれないのかとか、考えなくちゃいけないことはたくさんあるはずなのに頭が上手く働かない。

「ほら、集中して早く課題終わらせちゃってください」

顔を見なくても梓くんが満面の笑みを浮かべているだろう予想はついていて、羞恥と悔しさに唇を噛んだ。梓くんの調子はいつもこうだ。簡単にわたしを振り回して翻弄する、腹が立って仕方がないのに、わたしは梓くんのその屈託のない笑顔を見るとつい許したくなってしまうのだ。
先輩。わたしを呼ぶ梓くんの甘い声が耳元で聞こえて肌が粟だった。きっとこれもわざとやっているんだろう。せめてもの犯行とばかりに振り向くことをしないでもくもくと握っているシャープペンシルを動かしていると、梓くんの溜息が首筋にかかった。

「先輩、近いですね」
「………梓くんが近づいてるからね」
「そんな可愛いこと言ってくれるなら、もっと近づいてあげましょうか?」

言うなり、暖かくて柔らかい感触が肌に触れて、梓くんに舐められたのだと気付くころにはわたしの身体は梓くんに組み敷かれてしまっていた。どうしてそうなった、わたしの呟きは声になることはなく、わたしの唇を唇で塞ぐ梓くんの中に消えていった。


真昼のバスタブ
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◎special thanks:葵さん
フリリク参加ありがとうございました!

title is シュロ