君の運命になりたかったの続き 乱菊視点








 控えめに笑うあの子の笑顔がわたしは好きだった。

「乱菊さん、隊長どこにいるか分かりますか?」

 この子はいつだって隊長を探していて、それがどれほど報われないことか理解しているのにそれでもあきらめないその気高さにわたしは感心すら抱いていた。
でも、これはさすがにこの子には酷なことなのではないだろうか、そう思う自分がいるのにそれでもそれを止めてあげられないわたしは酷い上司なのかもしれない。

「…隊長なら、たぶん、」

 さんざん伝えるか迷った末、結局伝えてしまった私はやっぱりひどい上司ね。わたしが行くと言ってもあの子はきっと朽木隊長から預かったのは自分だからと譲ることはないのは目に見えて分かっていたから、それを言うこともなかった。でも、きっと上司の命令とでもいえばさすがのあの子もあきらめたのだろうけれど、それでもそれを言えなかったのは、あの子に早く無謀なことはあきらめた方がいいのよと伝えるためだったのかもしれない。まあ、正直なところ自分でもよく分かっていないのだけれど。
 それでも、笑顔で「わかりました」と言ってはやる心を止めもせずに隊長のところに向かう姿はやっぱり恋する女の子のそれで、すこし、その脇目もふらない様がうらやましく感じた。
 翻る死覇装はまるであの子の気持ちみたいに跳ねて踊っていた。



 修行、といえばいいのか、自分を磨くためにひたすら刀をふるう隊長は、自分の仕事をきっちりとこなして姿を消す。それはわたしにとっては楽なことなのだけれど、たまにはわたしもやらないといけないのだろう。ただでさえ、隊長は五番隊の仕事も引き受けているのだから、その心労は計り知れない。
 これが終わったら修平とかを誘ってお酒もいいかもしれない。そう思うと筆が進むもので、後ほんの数枚残すところになった所でカタン、とドアが動く音がした。
 ああ、この霊圧は、きっと。

「おかえりなさい、隊長には会えた?」
「…あ、いえ、その…忙しそうでしたので、」

 また明日手渡すことにしました。そう呟くあの子の瞳は少し赤くて目じりは赤くはれていた。なにがあったのかなんて一目瞭然だろう。あんな隊長の姿を見て分からないほど鈍い子ではないのだから。

「そう、それじゃあしょうがないわね」

 ことりと筆を置くと彼女はそれを目で追って、何となく心ここにあらずの様子でそれを眺めていた。ぼうっと見つめる先にはいつも隊長が座っている席。あの子がなにを見ているのかなんて聞かなくても分かる。だからなにも言わずにその様子を眺めていると、ぽろり、ぽろり、と後から後から途切れることを知らないかのようにあの子のまなじりから水滴がぽつぽつと床に降っていった。

「あんた…」

 ぽつりとわたしが言葉を発すると「乱菊さん?」心底不思議そうな顔でこちらを見る彼女と目があった。その間もぽろりぽろりと音もなく流れるそれはまるで真珠のように綺麗で、でも、彼女はその音に気付いていないのだ。
 そう思うともう、いてもたってもいられなくて、彼女のわたしよりもひょろりとした手首を掴んで顔をわたしの胸に押しつけた。
 ぶへ、だとか、苦しいとかなんと言われようとこの子をきっと一人で泣かせてはいけないんだと思った。それは、この子がきっと苦しむであろうことを知っていたのにあそこに送り出した私の義務であり、必然だった。


惑う抱擁


 この子を見ているとまるで自分を見ているような気持ちにさせられる。
 それが偽善だとなんだと言われようと、わたしがこの子の行く末を見守ろうとする理由なのだろう。


110703/tumor 
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