地球は青かった、そう昔の人は言った。このことは今では普通のことで、今もし同じことをわたしたちの世代の人間が言ったとしても「ふーん、だから?」と返されてしまうのだろう。
 地球は青かった。この有名な言葉が一世を風靡した時、自分の父や母の世代の人は一斉にテレビの前にかじりついて見たものだから、あの時のことを聞けば懐かしそうに、誇らしそうに話してくれる。まるで、自分がその冒険をしたかのように。それはどんなに時がたっても変わらないものなのだろう。

「ねえ、梓」
「なんですか」
「地球は青いってほんとかなあ」

 急になにを言うんだろう、と自分の隣にいるわたしの顔をまじまじと梓は見て、「青いんじゃないですか?」と言葉を放った。その言い方は、彼の弓から放たれる矢のように真っ直ぐなものではなく、もっとあいまいで投げやりな言い方だった。なんともひどい後輩君だ。
 背中をつぅ、と汗が流れる。部活の休憩時間のこのいらつくほどの熱さの中、同学年の宮地は飽きもせず、的に弓を放っているのが見えた。すぱん、と軽々しい音ではなくずどん、と胸の中心をつくようなそんな音を立てながら宮地の放った矢は正確に的の中心を貫く。まるで、そこに行くのが当然のように。

「どうして急にそんなことを?」
「うーん、空を見てたら急に思って、かなあ。なんとなく、聞いてみたくなった」
「ふぅん」

 ふぅん、ってそれだけか。ほんとにこの後輩は月子ちゃんしか眼中にないんだなあ、と思い知らされた。もし月子ちゃんが同じ質問をしたら、梓はなんて答えるのだろう。そう想像を働かせようとしたけれど、そもそもわたしは梓に月子ちゃんのように女の子扱いをされていないのだから、どのようにされるのか皆目見当がつかない。お粗末な脳みそだ。そして、そんな自分に少しばかり腹が立った。

「ああ、月子ちゃんに呼ばれてるから行くね」
「……」

 ぱたぱたとお尻に着いた埃を払うあたしを梓は少し嫌そうな顔をして見送った。埃と言っても梓や小熊君たち下級生、それにあたしたちも掃除を毎日しているのだからそんなにあるはずもないのだけれど。

「月子ちゃんなんか用だった?」
「うん、そうなの。あのね、打ってるところ見せてほしんだけどいいかな?」
「え、あたしの…?」

 首を傾げると、月子ちゃんはうん、と頷いて「どうしても!……だめかな…?」と可愛く首を傾げた。こんなに可愛くお願いされて断る人間なんているんだろうか。まあ、断りたい気持ちでいっぱいだったけれど。それでも減るものじゃないからオーケーをすれば、月子ちゃんはきらきらと瞳を輝かせて「ありがとう!」と笑った。



110515/舌
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