夏までもう少し。そろそろ長袖から半袖に変わろうかという時期になった。 目の前には部屋が広いからどこにでも座れるのに、わざわざ体育座りをして体を縮こまらせながら足の間でテレビを見る彼女。なんというか、好きだ、と思った。 思えば、付き合ってしばらくの月日がたつが、彼女にとっての俺はどういう目で見られているのかあまり把握していない。というか、聞いてない。 この付き合った期間で好きと言われたことはあっても、理由までは聞いたことがなかったのだから当然と言える。 彼女の黒い髪に白い肌は際立って見え、とろりとした甘いものが心を占めた。 「…そーいえばさ」 何気ない風を装って声をかければ、前を向いたまま返事が返ってきた。 「花乃子って、俺のどこが好きなんだ?」 「……え」 そんなこと言われると思いもしなかったのか、ぽかんとしているのが後ろから見て分かるくらい固まった後に、好きという言葉に反応して彼女の首は一気に赤く色付いた。それこそ、赤くないところが無いのではないかというくらい。 この様子だと顔も真っ赤に違いない。 過剰に反応してしまう彼女。なにもそんなに赤くなんなくてもいいのに、と思う。 ――まぁ、そこが可愛いのだけれど。 思わず彼女の素直な反応に口元が緩むのを感じた。 一方、唐突な井浦の質問に赤くなった花乃子はぱくぱくと空気を求める。 何か言わなくては、その思いが更に花乃子の頭を混乱させた。 「あ…っあ…っあああ、あのね」 「うん」 「…は、はじめは、ね。バイト先のコンビニがあるでしょ。そこで、一人の秀くんを見かけて。…次の日に、基子ちゃんとコンビニに来た時に見た秀くんは学校では見かけない秀くんで。なんか…その……それから学校とかでいつの間にか目で追ってて。……あの、ね。だから、いつの間にか好きになってて……だから、その……うぅ…」 自分でも何を口走っているのか分からなくなり、最後になると言葉は尻すぼみ消えてしまいそうなほどになる。ちらりと後ろの井浦をうかがうように振り向いた後息を吸って、吐いた。 「…だから……ぜんぶ、なの。ぜんぶ好きなの!」 見れば苺のように真っ赤な花乃子はきゅっと目をつぶり、口元を体育座りをしている膝にうずめている。 まさか、そんなことを言われるとは思いもしなかった井浦は赤い顔をこさえたまま、目の前にある薄い肩に額を当てた。 不意打ちだ。 自分の顔が赤いことに自覚がある。 そして、いつも以上に目の前にある存在がとても愛しく思えた。 「おれも」 「・・・?」 「おれも、好きだよ」 「っ!」 耳元でささやけば、ピクリと反応する肩とそこから伝わる鼓動。 「秀、くん」 恥ずかしそうに声を出す彼女は、その声のまま「そっち向いて、いい?」と聞いてきた。 返事をしない井浦の沈黙を肯定と受け取ったのか、もぞもぞと動き足の間で向きを変えた彼女はそのまま井浦の顔を見て微笑った。 110322/純情たるその手で陥落 |