頬はいつもだったら白いのに、今日は赤くまるでリンゴのようで。リンゴほっぺとはこういうのなのかもしれない。 苦しそうに開かれた唇からは熱っぽい息が漏れる。 「…ん…はぁ、」 汗をかいた額にピタリと張り付いた前髪を払うように手を伸ばす。 「…ん…ほま、れ…?」 「そうだよ、起きた?」 「ん…」 前髪を払った手に気づいて起きた彼女にほっと息をついた。 かすれた声で話す花乃子が起き上がるのを手伝って、近くに用意しておいた水を手渡す。 コップの水をちびちびと全て飲みきるともう一度寝るように優しく横たえた。 「ここは、あたしのへや…?」 きょろきょろと周りに目をやって自分が部屋にいることに違和感を感じたようだ。 なぜなら、彼女の最後の記憶は弓道場だろうから。 「花乃子、弓道場で倒れたんだよ」 「ああ、そっか…。でも、どうやってここに?」 「陽日先生に許可をもらって入れてもらったんだ。制限時間付きだけど。看病には誰かいるだろうって」 「…そうなんだ」 事情を理解すると辛そうに腕を目の前に持ってきてふう、と一回息を吐き、「迷惑かけて、ごめん」と小さく呟いた。 そう呟く彼女に違うと即座に反対した。 たしかに、目の前で急に倒れられて心臓がひやりとさせられて、慌てたけれど迷惑なんかじゃないんだ。 「迷惑なわけないよ」 心の中でつぶやいた言葉を口に出す。 「それに、謝ってほしい訳じゃないいんだ」 腕をのけて僕を見ている瞳を僕も見つめ返した。 「たまには、僕を頼ってよ」 そして、日頃から思っていた言葉を吐き出した。 「頼ってるよ…?」 たしかに彼女は頼っているように思っているのかもしれないけど、僕から見たらそうは見えない。 負けん気が強い彼女は、勉強だって人一倍がんばるし、弓道も朝早くから夜遅くまで練習をする。それに、男子校とも言えるここじゃ、彼女は目立つからよく男子から目をつけられる。 それでも、もともと合気道をやっていたから、そういう男子相手にも怯まずに立ち向かっていくし、その時に僕には頼ってくれない。 これのどこを見て僕を頼っているのか分からないよ。 「誉は気づいてないの?」 君らしいまっすぐな瞳に僕は射抜かれる。 熱で辛いのに、それすらも感じさせない瞳で。 「誉はいてくれるだけでいいの」 「いてくれるだけ…?」 「そうだよ」 「それはどういう意味?」 「そのままの意味だよ」 そういって、花乃子は一回言葉を切った。 「誉がそばにいてくれるだけで、あたしは元気になれるし、今だって誉じゃないと部屋を出て行ってもらってると思う。…それに、いつだってあたしは誉の笑顔に救われてるんだよ」 手を布団から出すと僕のほうに手を伸ばしてきた。 「だから、そんな顔しないで」 ぎゅっと握ってくる熱をもった手。 やさしく笑う目の前の君。 僕は今どんな顔をしているんだろう。 自分でもよく分からなくて、顔を伏せた。 そして目を閉じて花乃子の言葉を反芻する。 「そ、っか」 「うん」 「…じゃあ、花乃子が元気になれるように僕がそばにいないとね」 「…うん、誉がいてくれないとあたしが困る」 熱で頬を真っ赤にしている君が笑う。 なにもできないと思ってた。 けど、そうじゃなくて。 嬉しくてふふ、と僕の口から笑い声が漏れる。 僕の手に納まる手を握り返すと花乃子は笑った気配がした。 110323 |