「ああ、疲れた…」


自分のせいとはいえ、たまった書類を片付けるのは頭が痛くなる。
ほとんど終わった書類をしり目に少しだけ横になろうとソファーに転がる。
最近は忙しくて、疲れているのは自分でも自覚していた。
ふう、息をつくとバシンと勢いよく開かれるこの部屋の入口。


「ちょっと、聞いてよー!!かずきかずきかーずーきーくーん!!」
「…なんだよ…」


勘弁してくれよ、という体で一樹は転がっていたソファーから体を起こす。
起こしてソファーに寝っ転がっている自分の前に仁王立ちする自分の幼なじみ。
俺が荒れた時も懲りずに付きまとった幼なじみ。
それには感謝しているが、今は大いに迷惑な奴だと思う。


「おれは今やっと仕事から解放されたんだよ…」
「えー!なにその親父発言!!疲れたサラリーマンだよ!!若くいようよ!元気にハッピー!これとっても大事よ?」
「お前、声おっきーんだよ。元気にハッピーでいるために俺は寝るんだよ。…起きたら聞いてやるから。とにかく、起こすな。起こすなよ!」


びしっと指をさしていうと「一樹寝ちゃうとつまんなーい」とぶーぶーと不満を言い続ける幼なじみを無視して、眠る態勢に入る。こうすれば、なんだかんだでこいつは、おとなしくなるのは小さい頃からの自分の経験で知っている。



***



「…ん」


ふっと意識が起きると見覚えのある天井。
生徒会室だとすぐに分かった。
体を起こすとずるりとずれる自分にかかっていた毛布。
幼なじみのあいつが入り浸るうちにいつの間にか、持ち込んだ毛布だ。
きょろきょろと見まわすといないあいつ。
俺が寝てしまったたから暇になって、どこかに行ったのかもしれない。


「誉とかのところとかかな」


子供のようなあいつは一年の頃から誉に懐いている。
そして誉もあいつを妹のように思っているからちょうどよかったようにみえた。


「さて、残りのもするか」


ぐっと伸びてバキバキとなる自分の背骨に苦笑する。
あいつに言われた通り、ほんとに働き疲れたサラリーマンだ。
だが、それもこの学園の奴らのためなら悪くないな、と思う自分がいる。
早くしないと颯斗にどやされるなあ、と思い自分の椅子に近寄ると違和感を感じた。なんだろうか。
自分に背を向けた自分の椅子。
近寄って思わず苦笑がこぼれた。


「こんなところにいたのか…」


ぐーすかと安心しきって椅子の上で体操座りで寝る幼なじみ。
体操座りなんて器用な奴、と思い起こすようにゆさゆさと体を揺らす。
固まっていたからだがずるっと崩れ、ビクリと体を揺らして起きた幼なじみは「かずき…?」と寝起き特有のかすれた声で話した。


「こんなとこで寝て風邪ひいても知らんぞ」
「なんでよー、一樹を待ってたんだよー?そしたら寝ちゃったんだよー?」
「俺は待ってろと言ったが、寝ろとは言ってないぞ」
「だって、一樹に伝えたいことがあったんだもん」
「はいはい」


とりあえず、会長椅子から幼なじみのこいつをどけるとぷっくりと頬を膨らませて、不満さを表した。そのぷっくりといた頬を両側から押さえたら口からプスーと空気が抜けて、目の前のこいつが変な顔になって横を向いて笑いをこらえる。


「かずき、レディーに失礼」
「おま、じぶん、がレディー、って柄かよ」
「もう、笑うんなら笑ってよ!」


横腹をパンチする幼なじみにとうとうふきだす。
俺の様子にさらに不満そうにする。
自分が笑えって言ったくせに。
ぽんぽんと頭を叩くとぱしっと手を払われた。
払われた手をひらひらとして、置き場に困り首の後ろに手を置いた。


「で、なんだったんだ」
「……なにが?」


ドスの利いたような声でにらんでくる目の前の奴にふう、と分からないようにため息をつく。


「こんどチョコ買ってやるから機嫌を直せ」
「…ほんと?」
「ああ」


頭の中で許す?いやいや、そんなのでつられてたまるか!でも、チョコだよ?きっと一樹のことだから、超おいしーやつだよ。まじで?いんじゃない?許す?うんうん!という協議が開催されているのが丸わかりの目の前のこいつ。
単純さに笑いがこぼれる。


「ゴディバで許してしんぜよう!」
「わかったわかった」
「わーい!」
「で、何を伝えにきたんだ?」


結局なにしに来たんだと問えば、ぱっと時計を見た。


「一樹!行くよ!」
「どこに、っておい!」


やばいという顔をした後、バタバタと生徒会室から出ていく幼なじみ。
なんだよ、と思いつつも出て行った幼なじみを追いかける。
焦って出ていった割にそんなに遠くに行ってなくて、出てすぐのところで俺の手をひっぱり一生懸命走る。
こいつの全力疾走は余裕でついていけるから、周りを見ながら走っていた。


「この道は…」


ずんずんと上に向かって走っていき、目の前の扉を開けて広がる視界。


「っ四季!まだ!?」
「まだ大丈夫。あと少し後」
「よか、った、はぁ、」


突然現れた俺たちに驚く様子もなく、どこからともなく現れた神楽坂は目の前のしゃがんでぜーぜーといきを荒くするこいつの背中を優しくなでる。


「大丈夫か?」
「だい、じょぶ」


へらっと笑うと「一樹」と言ってきた。


「なんだ」
「いつも、おつかれさまー」


突然のことに、面食らうもすぐに笑って頭をぐしゃっと撫でる。
されるがままになる幼なじみに神楽坂が「くる」といった。


「一樹!上!」
「上?…あ」


眉をしかめて、上を見ればきらりと光り右から左に走ったいわゆる流れ星。


「みた?!」
「ああ。でも急にどうしたんだ?」


無邪気にきらきらと星をこぼしたように光る瞳でこっちをみる幼なじみ。


「一樹にね、いつもお疲れ様ってお礼がしたかったの!そしたら、四季が今日流れ星が見えるっていってたから!四季もありがとう!」
「別に気にしてない」
「四季にもチョコ分けてあげるね!」


自分の隣にいる四季の頭を撫でながらにこにこする幼なじみ。


(ああ、こいつはこういう奴だったな)


うるさく騒ぐくせに、一番人の様子を見ている奴。
急に熱くなる自分の目頭。
横で四季と騒ぐこいつにばれないように、上を見た。

もうひとつ、きらりと光る星が流れた。



110314/たしかに恋だった
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