じりじり照りつける太陽がまぶしい。
額に浮かんだ汗をハンカチで拭うとふう、とひとつ息をこぼしてから引き戸を引いた。


「よろしくお願いします」


外とは違って少しひんやりとした空気が肌をうつ。
一応、場所が場所だけであるので、誰が見ているとは関係なしにぺこりと挨拶をして中を見回す。
ちゃんとしないと、一つ上の先輩でもあり礼義には厳しい宮路龍之介に怒られるからである。
それでなくとも、弓道場イコール神聖な場所という考えが花乃子の頭にはこびりついているのだ。

そんな弓道部はちょうど休憩時間らしく、みんなのんびりと休憩しているみたいで、花乃子は目的の人物を探すため首を巡らせた。


「あれ、花乃子」


見つかるかなぁ、と考えていると目的の人物は探す手間もなく見つかった。
ほっと息をつくと、ちょうどいいとばかりに「あーずーさー」と顔の横でパタパタと手を振り呼び寄せる。
その様子に周りの話していた人物に断りを入れると、汗をぬぐっていたタオル片手にこちらまでゆったりとやってきてくれた。


「…なにかあったの?」
「あのね、はい!」


にまにまと緩む顔を隠しもせずに、顔の前に後ろ手に隠していたものを取り出す。花乃子の手の上には、最近よく見慣れた黄色のタッパーだ。
突然のことにぱちくりと真ん丸な眼をさらに丸くしたが、それでも数瞬後には目の前の彼――木ノ瀬梓はいつもの不敵ともいえる微笑を顔に乗せた。


「なに、また作ったの?」
「うん!」
「今回はなんなわけ」
「なんと……、じゃーん!イチゴタルト!」


カパリとタッパーの蓋をテラテラと光るイチゴをふんだんに載せたタルトが梓に見えるように開けた。
ついでにフォークの用意もばっちりである。


「とりあえず、食べてみて!」


タッパーとフォークを渡されたので、そのまま、ぐさりとフォークをケーキに差し込み、ケーキを口の中に運んだ。


(よ、読めない…)


反応が気になるが、肝心の梓は目をつむって咀しゃく中である。
まるで網の上でじりじりと焼かれる魚のような気分で、ごくりと飲みこむのを見終わると恐る恐る声をかけた。


「あ、あずさ」
「んー」
「どうだった……?」
「……」

(え、反応がないんですけど!)


反応が気になってはいたけど、それもそれで困る。
今回、作った時に居合わせた錫也先輩にも味見していただいて「おいしいよ」の一言をいただけて、安心してたのに……!
やっぱり、砂糖の量減らして作ったのが駄目だったのかな。

そんなことをつらつらと考えて、しゅんとしながら下を見るとこつんと頭に何かが当たった。


「花乃子が何考えてるのかなんてすぐに分かるけど、なにも言ってないのにその顔って」


やれやれって感じで肩をすくめると、もう一回こつんと頭にタッパーが当たる。


「はい」

「……へ?」


手のひらにのせられたタッパーは中に何も入ってないかのような軽さで戻ってきた。
いや、ようなではなく実際に入っていないのだ。


「次も作ってきてね」


なんとも彼らしく、にんまりと自信ありげな笑みでこちらを見てきた。


(ああもうカッコ可愛いな!)


嬉しい思いで、こくりと頷けば梓の笑顔がより優しくなった気がした。
この笑顔が見たくて作るのだ。
(次は何を作ろうかな〜)


そんなことを考える放課後の一コマのことである。



110222
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