玄関を開けたとたんに弾丸のように飛び出してきた少年がふたり。

「とりっくおあとりーと!」
「へ?」
「だーかーら!とりっくおあとりーと!」

ぷぅっと頬を膨らませた梓くんと翼くんが足もとでぐるぐると回ってお菓子をねだるけれど、すぐに二人はわたしの顔を見てお菓子を持っていないのに気づいたのか、ぷぅと膨らませた頬をさらに膨らませて不満をあらわにしたあとに「じゃあいいよ!」といってお母さんのいるリビングに行ってしまった。「おばちゃーん!とりっくおあとりーと」「とりっくおあとりーとだぬーん!」「あらあら。翼くんと梓くんってば今日の分はお菓子はあげたじゃない」「だっておねえちゃんがくれなかったんだもん」「待ってたのに!」今度はわたしのまわりじゃなくてお母さんのまわりをぐるぐる回りだしたようでお母さんが笑いながら翼くんと梓くんにしかたないわねぇと今日作ったんであろうクッキーを二つだけよといって上げているのが遠くで聞こえた。
わーいと喜ぶ素直な二人の声が悲しくて、思わず肩をおとした。




「――生、先生」

耳元に心地よい声が聞こえる。肩を揺さぶる手があたたかい。

「っん、んんぅー?」
「おはようございます」
「……あ…おはよう。梓くん」

ぽわんと瞬きをする中に浮かんだ梓くんの顔を見てふにゃりと笑うと梓くんは困ったような呆れたような顔をしてわたしの顔を見て「ここは学校ですよ、先生?」と言ってきれいに笑った。

「あ、梓く…じゃなくて木ノ瀬くん?!」
「やっと目が覚めたんですね」

覚醒した頭に梓くんの笑顔はなんだかひやりとしたものを感じる。先生という部分を強調していう梓くんの後ろに般若を見た気がして慌てて背筋を伸ばしたのは条件反射というものだ。

「……うぅ、ごめんなさい…」
「先生は相変わらずお寝坊さんですね」
「ち、ちがくて!これはちょっと、あの、」
「別に僕に弁解なんてしなくてもいいんじゃないですか」

そういってじっと見てくる木ノ瀬くんの目が怖いから謝ってるんだよ!みたいなことがいえたらいいのに、言えた試しがないんだからわたしってほんとに年上なのかなって梓くんといたら思ってしまう。思えばわたしは小さい梓くんに勝てた試しがないんだから、そうしようとすること自体がもう無理なことなのかもしれないけれど。年上の威厳ていうものがどこかで安売りしていたらきっと即座に買いに行くだろうなあなんて。

「えっと、あず…木ノ瀬くんはどうしてここに?」
「話そらしましたね」
「う゛…」
「まあいいですけどね。部長が呼んでたので僕が代わりに呼びに来たんですよ。なんでも陽日先生がつかまらないらしくて代わりに来てほしいんだとか」
「あ、そうなの?」

まさかここで寝ていたわたしを発見して怒りに来たのではないという事実にほっとして思わず肩の力を抜いてしまった。
とりあえず、この広げてしまった授業の資料を片付けてしまわなければ。金久保君に遅れることは梓くんに伝えてもらえばいいし。
「じゃあこれ片付けてから行くから。金久保君にそう伝えてもらえる?」
「いえ。待ってますから早く片付けちゃってください」
「でも、…悪いから」
そういって断れば、梓くんはいやに真剣な顔をして「僕が迎えに来たんですからかっこつけさせてください」なんていうものだから、うまく言いくるめられてしまった。言いくるめられるのは昔から変わらないけれど、こういう紳士的なことができるようになるなんてことが小さい頃の梓くんと比べて大人になったんだなあ、なんて一抹の寂しさを感じる。時がたつのって早いなあなんて。

あ、そういえば、夢で思い出したけれど明後日はハロウィンだ。


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