パシャリ

「あ?」
 
 思いのほか教室でのカメラの音は大きくてびっくりしていると、構えた先にいた哉太がこっちを驚いた顔をして向いていた。

「あ、気付かれちゃった」
「おい今なに撮ったんだよ」
「………てへ?」

 じとっとみる哉太の視線が怖いので、とりあえずオーバーオールを着てツインテールで舌を出したのが特徴の某飴菓子のキャラクターのまねをして、構えていたものを後ろに隠す。うろんげな視線が痛い痛い。

「おい見えてるっつーの」
「ナンノコトダカワカリマセーン」
「きゅうに外人のマネしてんじゃねえ!」
「きゃー!いたたたたたっ!つっこに言いつけてやる―!」

 そういうと途端に哉太のあたしの頭をぐりぐりする力が弱くなるもんだから、自分で言っといてなんだけど、結構傷ついたりする。もう、といって哉太の手を振り払って自分の頭をさするふりをして哉太から離れる。
 どんだけ月子が好きなんだっつーの。

「んだよ、そんなに強くやってねーぞ」
「哉太は男の子なんだからちょっとの力でもあたしには痛いんですー」
「っは、お前の頭がやわなんだろーが」
「ちがう!哉太が馬鹿力なの!」

 むーっと見返すと哉太がおかしそうに笑って横を向いた。あ、この顔好きだ。そう思って見惚れてると哉太が首を傾げて見てくるので、慌ててそっぽを向く。あわてて自分のカバンのある席に戻って、すでに荷物の詰めてあるカバンをひったくるように持った。

「か、帰る!」
「なんだよ急に」
「なんでもない! 見たいテレビがあったの思い出したから帰るだけ!」

 あー、もう、哉太と同じ空間にふたりきりってのは意外に心臓に悪い! 早く退散してお笑いでも見て笑って、宿題して寝る! うし、カンペキ!

「おい待てよ。俺も帰るから」
「いや、でも、ダッシュで帰るから!」

 バタバタとあわただしく手を振ってみると哉太が何いってんだよと言って、あたしのいるとこに近づいてきて、ぐしゃぐしゃと頭をかきまわす。

「わ、わ、かなた!」
「お前な、ちっとは自分が女ってこと自覚しろ! 一人で帰ったらあぶねーだろーが!」

 こんな哉太の言葉にキュンとなるあたしはひっじょーに哉太の事が好きらしい。そう思ってドキドキしながら大人しくなると、哉太は自分の席に行ってあんまり荷物の入ってないカバンを持ってわたしのとこやっていきた。

「かえんぞ」
「もう、哉太がひきとめた癖に!」
「いーんだよ、俺は」

 そういってにししと笑うと哉太は先に教室のドアを出て廊下に出る。なにそれなんて零して慌てて哉太の背中を追うと、廊下でちゃんと待ってる哉太がいて、案外律儀だよなと思った。くそ、ときめかない…こともないけど!
 さっきは月子のこと気にしてたのに。まあ、今はこれだけでも気にとめてくれるだけいいかと、哉太の背中をバシンと叩いて廊下を走り抜ける。後ろから哉太の声が追いかけてくる。


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