涙を堪えるのはまるで自分がかわいそうと主張しているみたいに見られるのがイヤだからだ。涙が伝ったアトを不器用な先輩のおやゆびの腹で優しく撫でられるのを大人しく甘受しながら視線を反らせば、思いのほか外が暗くなっているのに気がついた。 「こんな風にひとりで泣く前に早く俺に言えよ、このバカ」 「……泣いてません。七海先輩こそおバカさんな癖に言われたくないです」 「なっ…!……お前なあ…!」 「なんですか?文句があるなら聞きますけど」 「…いや、何でもねーよ……ったく、かわいくねーな…」 っち、と舌打ちをされて少しもやっとする。それに自分でもかわいくないことは重々 承知していて、「かわいくなくて結構です!」なんて返せば、先輩に深々とため息をつかれてもっともやもやした。 どうせなら、いっそのことこのままひとりにしてくれればいいのに。そうしたら思いっきり泣けるのに。それなのに七海先輩はいつだって、わたしをひとりにはしてくれなかった。それこそ、どうしてわたしがここで泣いているのに気がつくんだというくらいに先輩は聡いひとで、そばで涙をぬぐってくれた。 まるでスーパーマンみたいな人だな、なんて。 そりゃ、七海先輩は月子先輩のために自分の身を惜しまず投げ出すくらい優しいひとだけれど、それは先輩が(どんな感情があるにせよ)月子先輩が大切だというからの行動だし、でもだからといってその優しさをわざわざただの後輩のためにする必要はないのだ。 だからつまるところ、こんなにかわいくないわたしのために、先輩は心を砕くことははないのに、それを七海先輩はわかってくれなくて、それがどうしても悔しくてしょうがないのだった。いっそのこと、先輩と知り合いにさえならなければよかったなんて極論にいたる。そうすれば、わたしのせいで先輩は幼なじみを守るということに専念できるだろうから。 …なんて、そんなことを思うのに、結局先輩の手を振り払えない自分が悪いのは百も承知で分かっていた。だってそうしたら、先輩が傷つくとか、そういう偽善的なことじゃなくて、わたしが、七海先輩を好き、だから。だから、離れてほしくない。わがままで利己的で自己中心でって。全部同じ言葉だけど、まあ、とにかくわがままな人間なのだ。ほんと、先輩に言われた通りわたしはバカだ。 ――先輩、先輩はどうして私にかまってくれるんですか。 そう問いたいのに、返ってくる答えはきっと月子先輩の大事な後輩だからとか、そんなことなんだろうと思ったら怖くて急にしゃべれなくなったみたいに息が詰まって口が動かなくなる。 さきほどまで見知らぬ先輩に手を掴まれて手ひどい事をされそうになったことよりも、先輩が離れていく方が怖いと思うわたしは、とんだ間抜けかもしれなくて。 でも、それでも。期待させるくらいならこの手を離してほしいとか言いつつも、この優しい温度を手放したくないと、先輩の優しい掌が離れていくのを視界に入れながら、そう思うくらいは許してほしいとか願ってて。 ああ、もうほんと、わたしって、七海先輩バカだ。 I am a foolish woman. |