肌に突き刺さる風の冷たさは体に毒だというのになぜかふわふわとした心地で雪男は自分の住んでいる寮の屋上にいた。十二月も後半を過ぎてしまって残すところ一週間をきった頃、中学では考えられなかった友人とも言える人たちが出来てしまった僕は、先程まで彼らに誕生日パーティーを開催してもらった。本来、教師という職務をしているので、生徒の彼ら(といっても同い年だけれど)に祝って貰えると思わなかったので、知ったときは恥ずかしいような嬉しいような。なんだか面映ゆかったけれど。
 いつもだったら呆れた眼差しで見てしまう志摩くんの冗談ともつかぬボケや子猫丸くんと勝呂くんのツッコミ、神木さんの歯に衣着せぬ物言い、しえみさんのドジなところに兄さんの笑い声。全てが心地よかった。
 パーティー特有のそれらを堪能してしまったからか、どこか気持ちがふわふわとしている。

「あらら、めっずらし〜」

 だから、後ろからの気配なんて気がつかなくて声をかけられてようやく雪男は後ろに人がいることに気がついた。飄々とした佇まいは同僚の彼女のそれだ。

「今日誕生日パーティーだったんでしょ? 主役がここにいていいの?」
「…はあ、まあ。兄がいますから」
「兄がいますから、ねえ」

 ふぅん、と鼻で声をだした彼女は、顎に手を置いてこちらをじいっと見た。

「…なんですか?」

 不機嫌そうな声が出た。

「いやいや、雪男くんも高校生だったんだなあって思って」
「高校生って…貴方もでしょう…」
「もっちろん! わたしは花の女子高生よ! しかも年上! ふふん、讃えてもいいんだよ?」

 そういって大仰に空に手を振りかざすとにこにこと笑う。「讃えるってなんですか讃えるって」と呆れた視線を投げかけると「雪男はノリが悪いな〜」といってすぐに手を下げた。確かに志摩くんだったら女の子ってだけでほめたたえそうだけれど、あいにく僕はそんなキャラではないから期待されても困る。

 ふと見上げた空は雲ひとつなく綺麗な三日月が浮かんでいて、時折、自分の口から出る白い息が視界を覆う。

「……月が綺麗ですね」
「それって告白?」
「な…!? 違いますよ、そういう意味でいったんじゃありません! まったく貴方はすぐからかうんですから…」
「え〜だって、ねぇ。そういう流れだったじゃん」
「そういう流れってどんな流れですか」

 眼鏡を押し上げるついでに横目で見ると、ふふふ、と口元を手で覆う彼女が「冗談なのに、やっぱり雪男はつれないね〜」と言ってまたおかしそうにふふふと笑う。その横顔が月の白い光にあたって綺麗でドキリとしたなんて。彼女に知られたらからかわれそうだと、バレないようにそうっと月に視線をやった。

 でも、ほんとに月がきれいだ。
 寒くてそろそろ帰ろうかと思ったけれど、そんな気も掻き消えていて。あとほんの少しだけここいるのもそう悪くないと思った。


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