「……っ」

 突然息をつめたような声を出した先輩を見上げた。
 ソファーに座ってるわたしから見た先輩は蛍光灯に煌々と照らされており、指をにらみつけるみたいに見つめていて、そのあとに視線を投じていたわたしに気づいたみたいだった。

「また、切ったんですか?」

 暗い瞳と目が合うと反らしたい衝動にかられる。のに、囚われる。捕まる。

「俺はどうしたらいいんだろう…なあ、お前はどう思う?」

 光の点らない先輩の目はまるで死んでしまった魚のような目だった。いや、もう既に先輩は幼なじみによって刻一刻と、その首を絞められて死にそうになっているのかもしれない。じわりじわりと餌を与える魚の種類を変えて「錫也も誰か好きな人ができたらいいのになあ」という彼女のなんと残酷なことか。
 先輩という魚は彼女の愛情という餌しか口に入れようとしないのに彼女は無邪気に先輩を殺そうとする。じわりじわり、じわりじわりと。
 きっと先輩はそれが彼女は与えられるものだったら受け入れてしまうのだろうけれど。

「知りませんよ。自分で考えたらいいんじゃないんですか」

 ならば、わたしはどうすればいいのだろうか。わたしは彼女になることも、餌になってやることも出来やしないのに。でもわたしもこんな先輩を受け入れてしまってるんだから馬鹿だなあ。
 わたしは所詮、ただ傍にいることしかで出来ない女なのだ。

 ぽたりと先輩の人差し指から血がこぼれ落ちた。










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