「ここで、小麦粉を入れるときに空気を入れるようにふんわりと混ぜるのがポイントなんですよ」
「うん、こうかな?」
「はい、いい感じですよ」

東月君に見えるようにボールの中を見せながら混ぜれば、東月君は頷いた後にそれじゃあ型にいれて焼きましょうと可愛らしいハロウィンらしい型抜きを差し出してくれた。
かぼちゃ、コウモリ、スティックにネコ。ふんふんとなんだか楽しくて型を抜いていけば横で東月君がほほえましそうに見てきてることに気づいてなんだか少し照れくさい。そもそも東月君はさっき言ったように少し大人びていて、彼は人のことばかりにかまけている気がするのだからもう少し、自分のことを考えてくれてもいいのになあなんて思うのだ。でも、そのことを口に出して言うのは彼のテリトリーを侵しているようで、なんだかそういうことは言えなくて少しだけ、先生って言うのはさみしいなあなんて思う。友達だったら踏み入れられることも先生っていうのはダメなんだと少しずつ分かっていたことだ。その点、陽日先生はぶつかっていくのだからすごく尊敬できるなあと思う。

「それじゃあ、焼いていきましょう。薄く黄金色に色づいたら焼けた合図ですよ」

カチカチとタイマーを合わせた後に振り返ると東月君はお疲れ様です、といってココアでも飲みましょうと言って口を挟む暇もなく湯を沸かしてココアを飲む準備をしだした。

「東月君、わたしが」
「先生は座って待っててください」
「あ、でも……そうね。じゃあ、座って待ってるね」
「はい」

言いくるめられるところは、やっぱりわたしの性なのかなあ、と大人の威厳てものがやっぱり見つけられないのはわたしらしいといえばらしいのかもしれないなあなんて悲しいのか諦めたのか複雑な気持ちでいるとほかほかと湯気を放つカップを片手にわたしが座っている席までやってきた。そういう気遣いができるところまでが彼らしいのかもしれないけれど、少しは先生に頼ってほしいなあなんて思うのはわがままなのかどうなのか。

「東月君は誰かにあげるの?」
「え、おれ、ですか」
「うん」

きょとんとした顔をして自分の顔を指さすと困ったなあというように顔を歪めて、そのあとにしばらく考えるようなそぶりを見せると、その後に七海くんと土萌君と夜久さんといるときの顔をした。ああ、大切なもののことを考えている時の顔と言ったらいいのかもしれない。

「俺は、みんなが喜ぶ顔が見れたらいいんです」

そうして幸せそうに笑うんだから、東月君はほんとにみんなが好きなのだと思う。じゃあ、彼はいったい誰にもらうのだろうか、と考えたけれど、どうやらそれはわたしのお節介なのかもしれないなあと食堂の外に見えたリンゴみたいに真っ赤な髪と、太陽に照らされて光る銀色と茶色がふわふわと出て来づらそうにそわそわとしているのが分かった。
さて、じゃあどう教えてあげようかなあと東月君には見えない三人の姿を視界に入れながら考える。

「ふふ、じゃあ東月君にわたしのクッキーをあげたらもらってくれる?」

うれしそうに笑ってくれた東月君の顔が三人より先に見てしまって、もう少しだけ知らせないで見ていたいなあなんて考えたりしてみた。


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