先日の余韻からか、未だに校内は少しだけお祭り気分を味わうかのように空気が少しだけ賑わっている気がする。それもそのはず。我が星月学園の新聞部が先日のハロウィンパーティーを見だしに新聞を張りだしていたからだ。

「だからね!お願い白銀くん!写真のネガを消して?ね?」

パンと手を合わせてなにをお願いしているのかと言われれば、先日の仮装を生徒である白銀くんにとられてしまい、それが校内新聞に載ってしまったことを今朝出会ったばかりの水嶋くんに聞いたからである。

「くひひ〜それは先生の頼みでも聞けない頼みだよ〜」

なんとか、白銀君がいる西洋占星術科にやってきたのはいいもののお願いしても白銀くんはこういって断ってくるのだからもうお願い倒すしかない。そもそも、生徒にこんなにも頭を下げるのって教師としてどうなのかと思ったけれど、強い弟のような存在を持ってしまったものの定めなのか、こうして頭を下げることにあまりためらいを感じずにお願いすることができるのだと思う。これは梓くんに感謝するべきなのかどうなのか、そこのところは怪しいがここは目をつぶって感謝をしておこうと思う。

「そこをなんとか、ね?」
「だ〜め」

目を見てお願いするとこんどはますます嬉しそうに断られるものだから、もう打つ手がない。諦めろと言われたらそれまでなのに、それでもあきらめきれないのはあんな恥ずかしい仮装した格好が映像として残ってしまっているからだ。あんなのが、もし十年後とかに出てきたらきっと恥ずかしくて死ねるとさえ思ってしまい、ぎゅっと白銀くんの大きな手を握ってお願いしますと涙目ながらにお願いすれば「じゃあ、条件を飲んでくれたらいいよ〜くふふふ」となんとも怪しい笑いとともに条件を提示されてしまった。




なんでも、条件提示とは簡単なことにお菓子を作って持ってきてほしいことだそうだ。なんとも簡単な提示にほっと安心したのは、きっと白銀くんの普段の行いを見てし合っているからだろうか。ということで、やってきたのは学園でも大きなキッチンのある食堂でなんでも、白銀くんいわく昨日のハロウィンパーティーで材料はあるはずだからその辺のあまりもので作ってくれてもいいか、ということだった。そうして白銀くんがそんなことを知っているのかだとか、そういう疑問はできる限り持たないようにしているのはここ最近の白銀くんに対する耐性ができてしまっているからだ。
とはいったものの、わたしが作れるものなんてクッキーとかそういう簡単なもので、しかも手作りなんて久しぶり過ぎて作れるのかどうかすら怪しい。そう考えると、誰かに助けてほしいなあ、とか甘えた考えが浮かぶのは仕方のないことだと思ってほしいものだ。そう思ってため息をついていると後ろから甘い香りとともに昨日わたしに絶品なお菓子をくれた東月君がいてくれたものだからわたしの目はきっと輝いていたのだと思う。東月君が苦笑しながらこちらを見てきてくれた。

「こんにちは」

出会って早々に挨拶をしてくるのはきっとほんの数人にも満たないだろう。たいていの生徒は会って早々に名前を呼ぶか、なにをしているのか聞いてくるから、きっとこういうところが東月君の育ちの良さを思わせるのかもしれない。

「こんにちは、東月君」
「先生がこんなところでなんて珍しいですね」
「えっと、お菓子を作ろうと思って」
「お菓子…?」

不思議そうに首を傾げる彼にそれもそうだよなあ、と私でさえ思った。昨日一昨日ならハロウィンのためで済むことも、あの行事の終わった今は作ることに疑問を覚えるはずだ。そう思って、ネガのこと云々は伏せて白銀くんに作ってほしいとお願いされたところから、作ろうと思っていたけれど作り方が怪しくて困っているということまで話せば彼はだいたいのことがつかめたのか困って先輩ですね、となにもかもわかったように苦笑して俺が手伝いますよとこころよく講師の件を聞き入れてくれた。なんて出来た生徒なんだろうかと思ったけれど、あまりにも聞きわけがよすぎて少しだけ心配になった。


先生はちょっと心配です。でも、東月君の優しさが嬉しいんです。


春組


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