「先生は当日なにを着るんですか?」
「え、着なきゃダメなのかな?」
「ダメですよ!だってハロウィンですから!」

わたしはこの目から逃れるすべを知らない。キラキラした瞳をさせながら、この学園唯一の女の子の生徒である夜久さんが聞いてくるものだから、先生としてどうかと思ったけれど体を縮めながらそう答えれば勢いよく否定されて困った。外国じゃ仮装してお菓子といたずらをかけ引きして回る日も、日本ではお菓子くれ!って回ればいいんじゃないかななんて考えるわたしは星月学園の先生として失格なのかもしれません。

「え、でも着なきゃダメとも書いてないからいいんじゃ…」
「わたし、先生が着たのも見たいです!」
「え、えっと、えっと……た!助けてください青空くん!」

深々と頭を下げてお願いすれば、青空くんはそれはもう、素敵な笑顔で答えてくれた。「大丈夫です。星月先生と陽日先生と水嶋先生も着られるそうですから。先生も自信を持って着てください」と諌めるどころか夜久さんの後押しをする言葉で。

「あ、青空くん…」

裏切られた気持ちで青空くんを見れば、口元をかくして上品に笑った。

「ふふふ冗談ですよ。夜久さん、先生が困っていらっしゃいますしその辺にしておいたほうがよろしいと思いますよ」
「でも…」
「月子」
「一樹会長…」

不知火君が悲しそうに眉を下げた月子ちゃんの傍にやってきて彼女のさらさらした髪を乱暴に撫でると、にっといたずらっぽく笑ってわたしを見た。わたしにはその顔にいやな予感しか思いいたらない。

「そういうときは、アレを使えばいいと思うぞ?」
「し、しらぬいくん!」
「ああ、アレですか」
「そうだ」
「会長、アレって…?」

慌てるわたしを無視して不知火君がもったいぶったように頷けば、そのあとに「つばさ〜」といって、普通の学校の生徒会室にはありえないような研究室のドアを開けた。こういうときに、わたしの弟のような存在の男の子の名前を呼ぶんだからきっと不知火君には叶わないんだ。
不知火君が開けたドアから出てくる男の子のお願いに叶わないのも、きっとわたしが仮装をしてしまう未来が覆らないのも、不知火君が星詠みとか関係なくきっと彼の中では想像できているんだろう。

ああもう、生徒会の子には叶わないなあ。


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