あれからわたしは大学に進んで、なんの縁だか星の勉強をしていた。特に思い入れのない星を学ぶだなんて親には反対をされたけど、なんでか星の勉強がしたくなったのだから仕方がないじゃないか。でも、星はとても魅力的で星の観察をしてたらご飯だって忘れちゃう始末だ。同じ教授に着いた先輩に「君ってバカ?」なんて辛らつな言葉をかけられてしまったけれど自分でもバカだと思うからへらりと笑って返しておいた。下手な争いは好きじゃない。ふざけ合うのは別だけど。頭のいい先輩に噛みついたら、使用済みのボロ雑巾のようになってしまうのはもう学習済みなので、お口にチャックだ。

「そういえば、先輩」

問いかけると投げやりに「なあに?」と先輩が返したのを聞いて口を開く。今、先輩はわたしが図書館で借りてきた本の世界に没頭中だ。

「先輩ってば卒業したのにどうしてここに…?」

そう聞くとこっちを振り向いた先輩は君ってバカ?とわんばかりの顔をして深くため息をついた。言われなくても何となく雰囲気がそう物語っているのが分かってしまう。あれ、でもそれってとてつもなくかなしいよなあ…。悔しいけれど、もう先輩には何回バカって言われたか分からないから素直に心の中で「バカですよー」と返しておいた。すると、先輩が「なんで僕…こんなの……」とぼそぼそ呟いてもう一度ため息をついた。

「先輩、ため息つくとしあわせ逃げますよ?」
「……ほんと、鈍い子って困るよねえ」
「???」

なにを言ってるんだか、さっぱりわからなくて首を傾げると「なんでもないよ」と言って先輩はひらひらと手を振って話題を断ち切った。

「君、そろそろ教育実習期間でしょ?」

うーん、と首を傾げて、そういえば、そうだったなあ、と頭の中のカレンダーをめくった。

「たぶん、いえ、そうですけど、」

じろりと見られてあわてて言葉を変える。これ以上バカなんて言われてたまるものか…!……あれ?でも、それに先輩の何が関係しているんだろう、と思った。首を傾げると先輩に「それ以上首を傾げると首折れるんじゃない」と言われて元に戻す。いや、折るまでは曲げないけど。それ以上その体制だと先輩にバカにされるから、早く戻すに限る。

「僕のとこにおいでよ」
「先輩のとこ、ですか…?」
「なにその嫌そうな顔」
「…………いえ、別に……」

先輩のところなんて行ったらいじめられるに決まってるし、きっとパシリにされるんだろうなあ、と簡単に想像がついてしまった。それはいやだ。断固拒否だ。

「星について学ぶところだから他のところに行くよりいいと思うけど?」
「……」
「それにご飯もおいしいし、」
「……」
「ああ、そうだ。君の大好きな星がすごく見え、」
「行きます!」

そういって、先輩の声を遮って机を叩き立ち上がる。ぐっとこぶしを握って先輩を見るとにやりと笑うのが見え、て。「うわあ…」と声が口から洩れた。どうやらはめられたというのがすぐに分かって、さあっと血の気が引いたのが分かる。
行きません行きません、と頭の中で唱えていたのにその言葉も「星が見える」という言葉であっさり覆ってしまった、なんて。

「ほんと、君ってバカだね」
「うわあ、先輩やっぱり、やめ、」
「一回自分が言ったことだよ?やめないよね?」
「……………はい」

これで否定なんてしたらどんな大魔王が降ってくるか見当もつかないのでこっくりと頷いた。…百歩譲って、先輩と一緒にいるのを諦めよう。だって、星が見れるし、星が学べるし、星が見られるし。いいことづくめじゃないか!…先輩がいるのは置いといて。

「失礼なこと考えてない?」
「いはいれふ、ひふひはせんはい」
「なにいってんのか分かんないけど?」

その手を離してくれたら話せるよ…!そう思ってじっと見つめると先輩はぱっと手を離してそっぽを向いた。

「先輩?」
「とにかく、本当だったら9月1日に来てもらうけど、学校案内するから一日前に来るように、ね」
「あ、はい」

頷くと、先輩はこの本借りていくから、と言って研究室から去っていった。去り際が綺麗なの、やっぱりプレイボーイだからだろうか。うん?それにしても、これだけのために来たのだろうか?……水嶋先輩って、やっぱり変わり者だ、なあ。って………ん?

「その本レポートにいるんですけど!!先輩!嫌だけど、カムバック!!」



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