翼くんと初めて出会って一年が過ぎた頃、わたしはもう高校生になっていた。学校の通学路からそれてしまったいつもの川縁に行くと、小さく小さくまん丸となった今では見覚えのある背中を見つけた。「つーばーさーくん」その丸まった背なかに圧し掛かるように体を乗っけるといつもなら重いだなんだという文句の声が聞こえなくて、じっと翼くんは押し黙ったままだった。

「翼くん…?」

ほんとに反応のない翼くんにこんなところで寝てしまったのだろうか、と考えて、わたしはくすりと笑いがこぼれた。翼くんはすごく無防備なところがあるから、よくここで遊んだ後に、すやすやと寝てしまったりだとかしてしまうのだ。それにわたしはしょうがないなあ、と思いながらも翼くんに服をかけてやる。ほんとは「こんなとこで寝ちゃだめだよ」とか怒りたいのに、起きた時の翼くんがすごくかわいいからなんだかそれだけで許してしまいそうになるのだ。

「寝てるのー?」

顔をのぞきこめば、翼くんの瞳は開いていて全然眠そうな気配を微塵も感じなかった。いや、その反対で、むしろ眠気なんて微塵も見つからずどこか張りつめたものを感じた。

「つばさ、くん…?」

声をかけても翼くんはピクリとも反応してくれない。それどころかきゅうと目をつぶって逃げるように顔を抱え込んだ膝に埋めた。なにも見たくない、と言ってるみたいだ。様子のおかしな翼くんにそろそろと引っ付いていた体を離して横に座り、「翼くん」と呼びかけても反応は得られず、さっきからわたししか声を出していないその空間に酸素がなくなってしまったように、わたしは息苦しくなった。なんだか、声も出なくて、逃げ出したくて、でも、なんだかこの場から離れちゃいけない気がした。
まるで、翼くんがここから――――――しまうみたい。
恐ろしい考えがわたしの脳裏をかすめた時、翼くんの弱弱しい声が聞こえた。

「…れ…っから……っこ……って、」

顔をうずめたままでとても声なんて聞きとれなくて、どうしようと考えていると小さな体の翼くんがわたしの胸の中に飛び込んできた。小さいといっても、一年前に比べたら大きくなっていて、立っていたらお腹のあたりだった身長はもう、わたしの肩まで来ていた。きゅうっとしがみついてくる手が何かを求めているようで、そうっと手を翼くんの背中に伸ばしてぽんぽん、とリズムをつけて叩いた。翼くんがなにを伝えたくてここにいたのか私には皆目見当がつかなかったけれど、きっと今、とても悩んでいるのは分かった。

――翼くんが、いなくなってしまいそうな気がした。



next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -