Dグレの世界に行ってみる11

アレンとリナリーが任務に行って、しばらく経ったころだった。
一本の電話が室長に繋がる。

「なんだって!?」

電話の受話器から漏れて聞こえてくる声が、切羽詰まったようにレイの耳に届く。
コムイは立ちあがり、内容を聞き終わると目を大きな手で覆い、どさりと椅子に座り込んだ。その表情は暗く、浮かなかった。

「室長、どうしたんですか?」

コムイのただならぬ様子に、つられてレイの声が少し硬くなる。こういうときの室長の口からはよくないことしか伝えられないのをよく知っていたからだ。
机の上に持っていた書類をのせて聞く体制を取るとコムイはおもむろに口を開いた。

「元帥が……イエーガー元帥がベルギーで殺されたようだ」
「っ!」

レイはコムイの言葉にひゅっと息をのみ、口を手で覆った。そうしないと口から悲鳴とも取れる言葉が飛び出そうになったからだ。あの、ケビン・イエーガー元帥が。それがレイの頭をぐるぐると巡る。小さい頃に頭を撫でてくれた優しい手が、レイの記憶にはまだ新しい。
死と隣り合わせ。それが、この世界の常識であり、覚悟しておかなければいけないことだったのに。日に何人のバインダーが死んでいるか、研究班のレイが知らないはずがなかった。何故、エクソシストが無事といえるだろう。彼らは最も危険な任務を見一つで乗り越えているというのに。

「彼は、教会の十字架に後ろ向きにはりつけにされ『神狩り』と彫られていたそうだ」
「…むごい、」

それがどんなに悲惨なことか、ここにいる期間の長いレイにはすぐに分かった。唇をかみしめると血の味がした気がした。

「…ああ。だがそんなことも言ってられない。レイちゃん、悪いけどきみは科学班のみんなとエクソシストに連絡を入れてくれ。一刻を争うことだ。ああ、あとラビとブックマンにはここに連れてきてもらっていいかい?」
「はい」

そういって、レイは白衣をひるがえして室長の部屋から出ていった。
コムイには彼女がどんなに辛い思いをしているのかすぐに慮ることができた。その握りしめた小さな手は白く、そして震えていて。
レイが出て行くのを見届けるとコムイは「くそっ…!」と言って机を叩いた。じんじんと伝わるはずの痛みも今は分からなかった。




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