Dグレの世界に行ってみる10

そういえば、言ってなかったなー、と思いだした。

「ねえ、アレンに言ったことあったっけ?」

傍にある紅茶のカップを口に運ぶ。
ああ、やけどした。ひりひりした舌を冷やしながら、アレンを見る。

「なにがですか?」

アレンはコトンと首をかしげる。その姿はとてもかわいくて疲れた心がいやされる。
ああ、美少年は何やっても似合うなあ、と横目で見て思った。

「あたしの保護者のこと」
「レイの保護者が僕と関係あるんですか?」
「あるよー」

淡々と机の上の書類を自分で処理をするのと室長に持っていくので分ける。
書類の高さは優に座っているレイの背丈を越えていてなお、絶妙なバランスで立っている。アレンがよく崩れないなーと見ているとレイはさらにその上にプリントを乗せた。なんで僕ここにいるんだろう、そう考えてああレイに捕まったんだと思い返したとき聞き捨てならない言葉が耳に飛び込む。

「だってあたしの保護者ってクロスだもん」

あっけらかんというレイ、急に隣にいたはずのアレンが静かになったので「ん?」と顔を覗き込むと、青いを通り越して白い顔色になっていた。

「アレ」
「はあああああああ!!!え、はあ!?」
「アレン、落ち着いて」

急いでアレンに傍に置いてあるもう一方の紅茶が入ったカップを持ってきて渡すとすごい勢いで飲んでむせる。「大丈夫?アレン」そういって咳をするアレンの背中を撫でると、「だ、大丈夫です、」と息絶え絶えに伝えてくるので少し考えて離れた。しばらくすると落ち着いたのか深呼吸をしてこちらを向く。顔がとても青白いのが彼がどれだけクロスに虐げられたのかわかった。

「………」
「………」
「…と、取り乱してすいません、」
「ううん。今のでアレンがクロスになにされたのか大体わかったから」
「………」

黙ってしまったアレンの背中がなにかを思い出しているのか、たそがれていた。

「ま、あたしの保護者がクロスだといっても特に何もないんだけどねー」
「…そ、うなんですか…?」
「うん。だって拾われてすぐにここに置いて行かれたし」

傍にある、室長行きの書類を最終チェックとして、ぱらぱらと捲る。言いづらそうにアレンの視線はレイの顔と手元を行ったり来たりする。アレンの性格を考えるとなにを思っているのかすぐに分かった。

「…えっと、その…」
「あたしが拾われたってこと?気にしなくていいよー。みんな知ってるし」
「でも、」
「あたしが気にしてないの―。それに拾ってもらって感謝してるくらいだしね」

最後に紐でとじて、それを傍の書類と積み重ねる。アレンのほうに目を向けると、アレンが目を伏せていた。白いまつげがきらりと光って見えた。

「…そう、なんですか」
「そうなのさー。あ、じゃあ、これ室長のとこに持っていくから。そのクッキー食べていいよ」

そういって、席を立ってレイは、ぐらぐらと揺れる書類を抱えて科学班の部屋を出て行った。
その背中をアレンは何とも言えない表情で見つめる。さびしいような、知ってはいけない何かを知ってしまったような、心配が入り混じったような、そのすべてを混ぜ合わせたような、そんな瞳で。

「…だったら、どうしてそんな悲しそうな瞳をしてるんですか…」

そう呟いた、アレンの声は結局だれにも届くことはなく、空気に溶けて消えた。




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