仄暗い船の底から

ルビィに続き、チョッパーも消えた
以前と同じ様に船中を捜索したが見つからなかった
医務室の大量のガラス片とカビは、掃除をしたもののその臭いまで消す事は叶わず、今は誰も立ち入ろうとしない
船員達は前にも増して鬱々としてしまい、目には暗い光が灯っている
かく言うおれも頭が朦朧とする事が多くなっている
酒を抜いてる所為だと思い、酒に口をつけるがどうにも喉を通らない
笑える事に体が酒を受け付けなくなったらしい
禁断症状でも出たのか、最近は変なものが見える

最初はふと自分の腕を見た時だった
いつも通り展望台のトレーニングルームで身体を鍛えていた
あんな事があった所為かトレーニングに身が入らず、少し休憩しようとタオルに手を伸ばしたその時
視界に入った自分の腕に違和感を覚えた
よく見てみれば青白いはずの静脈がドス黒く染まっていた
ドクドク、と別の生き物の様に脈打つそれは、徐々に手首まで降りていく
何か嫌な予感を感じたらしいおれは、咄嗟に立て掛けてあった刀を抜くと手首に突き立てようと構えた
しかし、構えた時にはもうそれは居らず、目の錯覚だと片付けたのだ

次にそいつを見たのは食事の時だ
いつも通り気丈に振る舞うグル眉の出す食事に手をつけようとした時だった
調理された飯の中に何か蠢くものが居る
そいつらはドス黒い身体をうねうねとくねらせ、飯から出てこようとしていた
あまりの気持ち悪さに皿ごと奴らを腕で払う
すっ飛んで行った皿は飯をぶちまけながら壁に当たり、砕けた
静まり返るテーブル
数拍遅れてグル眉がおれの胸ぐらを掴む
「てめェ!!何しやがる!!」
「うるせェ!!てめェこそ虫の入った飯なんざ出しやがって!!」
「あァ!!?」
おれの、虫がいる、という発言にグル眉以外のクルーがサッと青ざめたのが見えた
「んなもんおれが入れるわけねェだろうが!!」
グル眉も負けじと反論してくる
「ちょっとあんたら止めなさいよ!!」
ナミがおれらの間に割って入り、引き離す
「ご飯を確認したけど虫なんていなかった!……ルビィもチョッパーも居なくなっちゃったからピリピリするのは分かる、けどね!一味の空気を悪くするのだけは止めて」
その言葉にグル眉の奴は何が言いたげだったが飲み込んだらしく、唇を噛み、こちらを睨みながら引き下がる
それを横目で見ながら、おれは酒瓶片手にダイニングの扉を乱暴に蹴り開け、後にした


見張り台に登り、海を眺める
酒瓶の蓋は開いてはいるものの、中の液体は一滴も減っていない
さっきから口に近づけては離してを繰り返しているだけだ
「……」
頬を撫ぜる潮風はいつもより生温く、吐き気を催しそうだ
薄くやせ細った月が雲に隠れ、普段ならば美しいはずの海面は、腐った沼の様に濁った色をしている

おれは喉まで出かかった何かを押し戻す様に、酒瓶を一気に煽った
久方ぶりの酒が身体に染み渡る、なんて事はなく、喉を焼き、のたうち回るその液体が何か別の生き物に感じられて仕方がなかった
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