仄暗い船の底から

ルビィが帰って来た、とチョッパーが騒いでいたのは、ほんの2日前だ
その言葉を聞いた時、安堵と空腹感が一気に襲いかかって来た
すぐさま医務室に押し掛けたが、容体が安定しないと面会謝絶を言い渡されてしまった
だが、帰って来たことに変わりわなく、安堵のため息をつきながらその場に蹲ったおれを禁酒状態のゾロが支えてくれた
ここ数日飲まず食わずだった身体はもうとっくに限界で、禁酒で禁断症状が出そうになっていたゾロと共に慌ててキッチンへと駆け込む
其処には、帰って来たルビィの為、といつも以上に張り切るサンジと飯が並んでいた
サンジにルビィの分が無くなると叱られながらも、久々に一味揃ってテーブルを囲んだ
医務室にいるルビィとチョッパーは残念ながら一緒に飯を食べられなかったが、サンジが運んでいった飯を食えばきっとすぐ良くなる、そう思っていた

「チョッパー、ルビィにはまだ会えねェのか?」
医務室の扉を叩く
扉を少し開き、その隙間から滑るように出て来たチョッパーに問う
ルビィが帰って来てから早3日が経とうとしていた
大事なおれの片割れには未だ会えていない
「ごめんルフィ、まだ容体が良くないんだ……もしかしたら厄介なウィルスかもしれないから会わせるわけにはいかないんだ……わかってくれ……」
悲しげに目を伏せ、そう言うチョッパーにおれはそれ以上無理を言うことは出来なかった


ルビィが帰って来て5日が過ぎた
ダイニングテーブルで1人昼飯の乗ったプレートをつつくおれに、サンジが話しかけてくる
「ルフィ、ルビィちゃんにはまだ会えねェのか……?」
少し顔を上げ、チラリと上目遣いにサンジを見る
「…………まだ、ダメらしい」
「……そうか」
ルビィが帰ってすぐに復活した食欲は、この頃には帰ってくる前と変わらないくらい、すっかり無くなっていた
喉を通らない飯を前に、おれはただフォークで好物の筈の肉を繰り返し突き刺す
何時もなら食い物で遊ぶなとキレるサンジも、この時ばかりは何も言ってこなかった


ルビィが帰ってから10日が経った
チョッパーは3日前から医務室から出てこない
飯を食った形跡がない、とサンジが騒いだ事でチョッパーの姿を誰も見ていない事が判明した
「チョッパー!おいチョッパー!!大丈夫なのか!?返事してくれ!!」
ウソップが医務室の扉を叩くも、中からは何の反応もない
しん、と静まり返った船に、医務室の周りだけ妙にどんよりと冷たい空気が漂っている感じがした
医務室からは物音ひとつ聞こえてこない
「おいチョッパー!!!」
尚も扉を叩き続けるウソップをゾロが制し、サンジと共に扉を蹴破る
吹き飛んだ扉を尻目に、おれは一目散に医務室の中へ入った
「チョッパー!何処だ………っう!!!?」
続いてウソップが入る
チョッパーの姿を探すウソップが顔を顰めるのと、おれがそれを発見するのはほぼ同時だった
「なんだこの臭いは……っ」
後に続いて入ってきたゾロもその臭いに顔を顰める
臭いの発生源はすぐに分かった
ビニールで隔離される様に囲われた一つのベッド
その中央は丁度人ひとり分の膨らみがあった
臭いの発生源はどうやらこのビニールの中、つまりベッドかららしい
チョッパーの話が本当なら、隔離されたこのベッドには本来ルビィが横たわっている筈だ
ビニールのカーテンをゆっくりと開け、布団に手を掛ける
口と鼻を手で覆ったウソップと、顰め面でベッドを睨むゾロと目配せをし、勢いよく布団を剥がす
「うわっ!」
「っ!!?」
「な……っ」
其処に居たのはルビィなどではなく、大量のガラス片と、どす黒いカビだった
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