Melt refrain | ナノ

矛盾だらけの僕の戯言





夢を、見た。
暖かくて、心地よくて、凄く幸せな夢。
俺の手を握っていたのは――――





「…はー」

「どうしたー」

「藤…うーん、なんだろうな」

「何か考え事?」

「まあ、そんなところかな…」


絶花先生ン所かハデス先生のところ行けば?
藤はそう言って俺の肩を叩く。悩みを聞かれても困るから、正しい判断と言うか、有難い判断だ。藤らしいと言えば、らしい。椅子に座ったまま机に突っ伏した状態で居ても、仕方が無い。取り敢えず先に、ハデス先生を訪ねよう。多分一番、気楽だ。
絶花先生は後だ。あの人はきっと、俺を悩ませる。的確な答えを与えながら、俺を苦しめる。先生にそんなつもりは無いとしても、きっと。だから、後回し。
教室の前の扉から誰かが入って来る中を、俺は反対の扉から出た。保健室に、足を向けて。しかし一体、どう話せば良いのか。夢の話なんて、所詮夢の話。ハデス先生の事だから(別に先生が悪いとかそういう訳じゃなく)、あんまり気にしない方が良い、と来るかも知れない。そうしたら、俺はいよいよ絶花先生に助けを求める事になる。正直なところ、なるべくなら頼りたくない。どうしてかと言われれば、また先程の話に戻る事になる。扉を開いたその先に広がる保健室には、ハデス先生が不慣れな手付きで携帯をいじっていた。中に足を踏み入れれば、薬品の匂いが鼻を掠める。俺が入った事に気付いたらしいハデス先生はそうっと携帯を机に置いて、俺を迎えた。


「珍しいね、どうしたの?」

「あー…あの、ちょっと話を聞いて貰いたくて」

「…僕で良ければ」


どうぞ、と勧められたソファに腰を下ろす。
テスト終わりで誰も居ない保健室は実に静かだ。これが保健室の正しい姿かと聞かれれば、そうだ。でも先生にとっては賑やかな方が良いんだろうなあとか無関係な事を考えた。落ち着かなければ。夢如きに頭を悩ませるなんて、俺はなんて平和なやつなんだろう。静かにひっそりと、溜め息を零す。対面するように座ったハデス先生が促したので、俺は漸く、口を開いた。夢の、話。俺は酷く幸せだったけれど、その相手が男だった事。それが酷く、アイツに似ていて(寧ろアイツなんだろうけど、認めたくはない)。不安だったけれど、其れがどうしてなのか。ハデス先生は笑う事も無く、俺の話を聞いてくれた。想像していたような言葉は返ってくることも無く、少しだけ考え込む様な仕草を見せた。気持ち悪いと罵倒されるだろうか。ハデス先生に限ってそれはないか。気持ちを落ち着ける。


「そうか…その子の事で、最近気になった事とか…ある?」

「あー…最近変なんですよね、様子が。不審、と言うか」

「それが原因かも知れないけど…一番は杉島くんの心境だね」

「俺の、心境?」

「別に悪いことではないよ。けど、少しくらい正直になってみることも大切だと思うんだ」

「正直、って…」

「僕に的確なアドバイスは出来ないな…ごめんね、上手く言えなくて」

「え、いや…」

「あ、もしまだ不安が有れば絶花先生に…多分、もう大丈夫だと思うから」

「は、い」


ハデス先生の言葉は、何と無く理解出来た。でも、俺の心はそれを拒もうとする。
――正直、に。
正直になったら、俺はどうなるんだろう?アイツは?今は、まだ良い。正直になってみれば、素直に言えたならきっと楽になるだろう。でも、それが俺の為になるとは限らない。悩みが解消されたとしても、状況は悪化するかも知れない。その判断が上手く、付かない。だから進めない。俺は思ったより臆病だったんだなあ、と他人事みたいに考えた。冗談だと言って流されるかも知れない。それでも良い。きっとそれが一番良い。でもそれで俺は、納得出来るのか?臆病な癖に我儘で、どうしようも無い疑問。空き部屋。扉を開けばまるで俺を待っていたみたいに、絶花先生が椅子に座っていた。相変わらず目つきもガラも悪い。先生とは思えない。だからこそ落ち着いて話せるのかも知れないけれど。俺はカウンセリングなんてした事は無い。そんな重大な悩みを抱えた事が無かった。今回ばかりは違う、けれど。


「…なんか用か?」

「用です。…まだカウンセリングして貰えますよね」

「…そこ、座れ。お前何年だっけ?あと名前」

「二年です。杉島翔」

「…へー…コレやるよ。食え」


放られたのは飴。
興味無さげに背もたれに身を預ける絶花先生は一見ガラが悪い。と、言うか普通に悪い。生徒に人気なところを見る限りでは、良い人だけれど。確か子供好きなんだよなあと何となくほのぼのする。貰った飴を舐めようかと思ったけど、聞き取り辛くなるんじゃないかと迷う。でも食えと言われたんだから食べるべきか…自分で食べろと言っておいて怒るひとは居ない…よな?取り敢えず飴玉の包みを剥いで、口に入れた。甘い、苺の味だ。舌で彼方此方に転がしながら、先生を見る。何故か睨むような視線で此方を見ているが、どうしても逸らせない。怖い?いや、怖くは無い。ただ、何もかもを見透かされる様な、そんな感覚に陥る。――不安だ。不安を煽られる、そんな。冷汗が背中を伝った気さえした。やっぱり絶花先生は"後回し"だ。


「お前の悩み、当ててやろうか」

「え、いやいいですよ…」


じっと俺から視線を外さなかった先生が、ポツリと告げた。反射的に首を振って拒否を示せば、どうしてか絶花先生の口元が、愉快気に歪む。何か面白いんだろうか。冗談?でも先生は冗談を言いそうな顔(あ、失礼か)はしていない。何なんだ。そんな霊能力者とかそう言う部類みたいな事言わないで下さい、と。そう続けようと思ったのに。


「お前、好きなヤツ居るんだろ?」

「!」

「しかも男だな。…カウンセリングなんてお前にはしてやんねぇよ」


言い当て、られた。
まだ何も言ってないのに。これじゃあ本当に超能力者か何かだ。
先生は依然として愉快気に笑って、もう何を考えているのか分からない。冒頭はよかった。カウセリング(と、言うか…相談?)、だった様に思えた。でも違う。先生はそんなつもりじゃなかった?じゃあどうして俺の相談を受けたんだ。ぐるぐると不安が巡る。子供をあやす様に頭を乱暴な手付きで撫ぜられた。見上げると、絶花先生、が――


「俺にしとけ」

「は、何…言って、…教師と生徒の間柄である限り、出来ない、と」

「…言わねーよ」

「どうして、俺なんですか」

「あ?」

「可愛い女子生徒なら幾らでも居るじゃないですか。みのりちゃんとかだって居るし、寧ろあなたにあげる気はありませんけど」

「お前言ってる事訳分かんねーよ。結局どうすんだ?」

「…付け込むんですか」

「何の話だ」


そうやって、俺の逃げ場を作るんですか。
絶花先生は肩を竦めて、どうだか、なんて誤魔化して。嫌だ、駄目だ、逃げたくない、そう思うのに縋りたくなる。狡い。狡い狡い、俺は、そんな事望んでいないのに。正面から向き合って、何とかしたいのに。そんな事言われたら、諦めて、逃げたくなってしまう。其れを分かっていて、言ってるんですか。そう訊きたいけど返ってくるのはきっと「どうだか」、そうやって突き放して引き寄せて、一体何なんだ。


「杉島、俺はお前をそんな風に悩ませたりなんかしねぇよ」

「しますよ、現に今してるじゃないですか」

「今後の話だばーか」

「…はは、じゃあ絶花先生と付き合っても良いかもしれませんね」

「良いに決まってんだろ」

「学校にバレないといい、ですね」

「フン、そんなモンどうにでもなる。…あと敬語止めろ、気持ち悪ィ」

「それは頼もしいです、ね…って言うか普通生徒に言う?ソレ」

「良いだろ別に。気持ち悪いモンは気持ち悪い。でも他の奴が居る手前は止めろ」

「はいはーい」


そう言えばこの間見た雑誌で、彼女の愛を確かめる方法、とか言って。押してダメなら引いて見ろ、目を離した隙に他の男に取られちゃうぜ!、結局どうしろってんだって笑ったのに。
あいつも普通の女の子のがいい、よなあ。だって、女の子好きだもんなあ。俺だって好きだよ女の子。でも人間追い詰められるとどーでも良くなるのか、何なのか、今の俺は逃げ出したくて堪らないだけなんだ。俺らしくも無い。
押してダメなら引いて見ろ、押した事は無いけど何か思ってくれたら嬉しいな、なんて。絶花先生の腕に抱かれながら、俺はお前の事を考える。
最低?そんなの俺が一番分かってるさ。


「療治、すき」





矛盾だらけの僕の戯言
(ごめん、ごめん、)


(届く筈の無いことばを、呟いた)













くっら…!!!
暗すぎるなんだこれ…!←
あ、これ安田連載ですよ。決して絶花先生の連載ではありません。ええ。
あとジャンプで見たきりなのであんまりキャラが…あやふやで済みません。
なのにどうして出したかと言われるとカウンセラーと言う良い立場だったからですね、あの、その位しか知りません本気で。
学校にいる人なの?あの人。(…)
間違いが多ければ後々修正しますので。



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