Melt refrain | ナノ

優先順位





「え?あー、うん、分かった」

早朝、携帯に突然の電話。
何かと思えば今日は休校だそうで、ラッキー、と指を鳴らした。
因みに電話の相手は藤。
向こう側では言葉遣い云々の文句が聞こえる。
黙って聞いていると暫くして会話が途切れた。
はあ、と溜め息が携帯のマイクを凪ぐ。
苦労してんだなあと思いつつも言葉も見付からず次の言葉を待った。


「じゃ、そう言う事で。…悪かったな、家の連中煩くてよ」

「お?…いんや、気にすんなよ。苦労してんのは当事者だけだぜ、俺なんもされてねーし」

「フォローされてんだか馬鹿にされてんだか分かんね。…もう切るぞ、見えねーメールに切り替える」

「あ、そう言う?…おっけ、了解」


プツン、と藤が電源ボタンを押したらしく電子音が虚しく響き始めた。
一先ず携帯を閉じて、また開いた。
メール、一件。藤だとしたら早過ぎやしないか。
お前そんな携帯っ子だったか…?思いながらメール画面を開けば表示された名前は「安田」。
良く見れば受信時刻は俺と藤が電話をしていたくらいの時間だ。
しかし、どうしたんだコイツ。
普通にAKYのDVD満喫してる頃だと思ったが、何か有ったんだろうか。
開こうと思った矢先に、藤からのメールが届いた。
俺の好きなtime of dyingが流れ出して、少しだけ聴き入ってから決定ボタンを押した。
あ、少し爪伸びたな。指先から少しはみ出すくらいに伸びた爪でボタンをいじる。


From 藤
Sub (non title)
 [ Message ]
お前って甘いモン好き?


意味、分かんねぇええ…
俺の頭の中はコレで一色になった。突然の質問。どうしたんだ藤。
遂に他人に興味を持つようになったのか…!?天変地異の前触れじゃないだろうか。
話題が無かったのか、何なのか。
どきどきしつつ(いやな意味でね、やべえ変な汗掻く…!)返信を打ち始めた。


To 藤
Sub (non title)
 [ Message ]
いきなりどした…?
いや甘いモンは超好きだけど。
女の子くらい好きですけど。

「送信、と」


因みに女の子はこの世で一番目に好きだ。大好物だ。
だからってモテたいとかエロい事に興味が有る訳じゃなくて(美作とか安田とかみたいに)、単にほわほわした姿を見るのが好きなんだ。
シンヤみたいな子も可愛くて大好きだけどね。あと花ちゃんも超可愛いね。
内気なところなんてストライク。
みのるちゃんはツンデレだよなー…つかあの胸、肩凝りそ。
今度何かプレゼントすっか。色々想像を膨らまる。
と、藤からの返信を待つ間に安田に返信してしまおう。
アイツどうせメール打つの早くねーし(少なくとも安田よりは)。
どれどれ、と開いたメールを読んだ事を俺は後悔した。
そうだ、コイツ安田じゃねーか。将来有望の。
何心配してたんだろ、俺泣きそう。何コイツ殴っていいの?ブッ飛ばして良い?


From 安田
Sub やべぇえええ!!
 [ Message ]
熱子が可愛過ぎて俺の色んなところがやべぇ!!
お前、これっ…見ろ!つーかお前家来い!!
来て熱子の可愛さを知れ!あ、待てあーどうしよう、
お前に俺の熱子を公開するのは…よし、来い!


「…コイツ記憶喪失にでもなればいいのに。それか死ね」


みし、と携帯が音を立てたのはとっても気の所為だ。ごめんな携帯。
やべえ…俺結構寛容さは有るつもりだけどコイツにこんなムカついたの初めてだわ。
幾ら安田と言えどこう言う所がコイツの良い所なんだろうなーとか思って大目に見てきたがこればかりはムカつく。全力で殴りたい。つーか色んな所って何?
お前の場合下半身以外ねーだろうが。あ、あと頭か。
しかし来い、と来たか…俺普通に熱子ちゃん可愛いと思ってるけど駄目なんかな。
返信画面を開いたまま唸っていると、受信画面に切り替わった。藤だ。


From 藤
Sub (non title)
 [ Message ]
いや特に理由はねーけど。
ただ訊きたかっただけ…つか
お前の基準、意味分かんねえ。


「なぬっ」


藤め…あんだけモテといて、女子が好きじゃないとかねーよ!
どんな神経してんだ…寧ろお前が意味分かんねーよ。
俺だって藤ほどじゃないけどモテる。だけどあんなに女子に囲まれた事は無い。
それにバレンタインとか俺に渡さないで藤だけって子は居ても藤に渡さないで俺だけって子は一人も居ない(何で分かったかって、ラッピング大抵一緒だろ)。
だから俺にくれてる子は大概と言うか、知ってる中じゃ皆藤にもやってる。
男として悔しいだろうが!流石にあんなに貰ったらキツイけど(折角くれてんだから全部食うよ)、でも悔しい。
藤はそりゃ正直、男から見たってイケメンだ。
性格も悪くねーし女の子には好かれるような奴だろうと思う。
因みに俺は友人として藤が大好きだ。とても好きだ。…好きだ(大事な事なので三回言いました)。
とか何とか一人で画面と睨めっこしてる内に五分が経過した。
やべえ、安田への返信がどんどん遅れて行く。別に良いけど何か申し訳ないっつーか…いやいや、元はと言えばアイツが変なメール送ってくんのが悪い。
いやアイツが変なのは今に始まった事じゃねーけど!


To 藤
Sub (non title)
 [ Message ]
あ、そう?別に良いんだけどさ…。
いやいやお前可笑しいだろソレ!
あんだけ女子に囲まれて置いて…
自慢か。自慢なんだな。だから美作とかに
うだうだ言われんだぜ?お前。


「…よし。さてアホの安田に返信しますか」


参照返信とまあ便利なものを使って、文字を打っていく。
しかし安田マジうるせーな…興奮すんな馬鹿。
お前いつか学校で名を轟かせるようになんぞ、『変態』って言う。
別に嫌いじゃねんだけど…マイペースっつーか…我が道を行く、って言うか。
自由奔放な奴なんだよな。あ、自己中心とも言うな。
普段はマシだし普通にしてりゃ顔は悪くない。あれ、俺…結構失礼な事言ってねえ?
いやまあ、これはあくまで俺の見解だから、回りから見ればまた違うのかも知れない。
中身美作よりタチ悪ィかんな…何せエロ>モテな奴だ。
逆にしとけばまだモテるだろうに…まあアレがアイツなんだから、良いか。


To 安田
Sub (non title)
 [ Message ]
お前うるせえ。
はいはい今から行きますよー
安田クンの為にね…じゃなくて、
熱子チャンの為にね。
あとお前のじゃねえから熱子ちゃんは。


「…よし。適当に準備すっかな」


よいしょ、とベッドに携帯を放って立ち上がった。
本当は暴風警報出てるし外に出んのはダメなんだけど暇だし、良いか。
俺って悪い子。そんな俺を咎めない親も親だけどな。
行ってきまー、と声を掛けて家を出れば灰色の空が視界の端に見えた。
天気が荒れるような気がする。今日は家庭学習にして正解だ。
俺の予想ではハデス先生が学校に行ってるような…はは、大丈夫かな。少し心配だ。
安田の家が見えて来た頃、いつメールが来ても気付くように手に持っていた携帯から音楽が流れた。
time of dying。…藤だ。


From 藤
Sub (non title)
 [ Message ]
可笑しくねーよ。
可笑しいのお前だろ…あんだけ囲まれて
キャーキャー喚かれて良く好きでいられるな。
別に嫌いって訳じゃねーけど…美作?
お前だって言われてんだろ。


俺が可笑しいって…どう見てもお前が可笑しいだろうが。
俺が可笑しいなら美作とか其処らの男子とか…皆可笑しいわ。
安田は抜きな、同類とかやだし大体アイツ女子っつーか女子の体っつーか…どうしよう、将来有望だけどアイツの将来が超心配だ。
大体有望ってソレ、褒めてねーし。何も有望じゃねえよ、刑務所行きの話か?
…つか何で安田の将来を俺が心配しなきゃいけねんだ。馬鹿か。
溜め息一つ零して、インターホンを押した。
アイツと俺の家は割と近い。大体10分くらいだろうか。
嬉しいような悲しいような…お陰で登校は美作、本好、安田と一緒だ。
アイツらは幼馴染だけど俺は違うし、少しだけ気まずかったりもする。
何か疎外感、っつーの?アイツら何も思ってねーだろうけど…特に有ったのは本好か。
本好は美作にべったりだかんな…居心地悪いし。その点安田は付き合い易いし(前はもっと普通で、何かマトモさが有ったのにな)、嫌いじゃねーのはその所為か。
どうぞー、と言う声が掛って俺は扉を引いた。
玄関には安田のお母様が居て、軽く頭を下げると共にお早う御座いますと告げた。


「あら、杉島くんじゃない!…今日は暴風警報で学校休みなのよね」

「あ、はい。天気悪くなる前には帰ろうかと思ってますけど…安田に誘われたんで、お邪魔しに来ちゃいました」

「どうぞどうぞ!ごめんね、あんなのに付き合わせちゃって・・・予定とか、大丈夫?」

「御構い無く。…予定は無いです、元々学校行く気だったんで…大丈夫ですよ」

「そう?なら良かった…貢広ー!杉島くん来てくれたわよー!」


お母様は階段下からそう声を掛けると扉の開く音が微かに聞こえて、安田が顔を出した。
降りることは無く、その場に屈み込む。
ちょいちょい、と手招きをされて、「ん。早かったな、あがれよ」と俺に言った安田にお母様は怒鳴ろうと口を開いたのを俺は見逃さず慌てて制した。
安田には俺が言っておくんで、と言えばお母様は申し訳無さそうに眉をハの字に下げ。
そんなお母様に笑みを向けてから俺は一言「お邪魔します」とだけ次いで階段を上がった。もう何度も訪れた場所だけ有って、もう勝手知ったる状態である。
部屋を覗けばAKYだらけの中で安田がテレビを向いてベッドに寄り掛かった状態で居た。
コレが友人と言えど客人を迎える態度なのか…。


「よ。…で、熱子ちゃんだっけ?」

「おうよ…つかお前マジで来んのな」

「お前が呼んだんだろ。…あ、そうだ藤からメール来てたんだった…」

「俺の家に来て置いて藤とメール?!」

「え…何か問題有んの?」

「あー…いや、別に。さ、DVD見ようぜー」

「変な安田…俺何処座って良い?」


一瞬詰まらなそうな顔をした安田は何事も無かったかの様にDVDをセットし始めた。
今まで長く付き合っては来たけど、こんな安田を見るのは初めてだ。
こんな顔すんのも久々だし(俺が見てないだけかも知んねーけど)、今度訊いて見るか。今は…訊いても答えてくれそうには無い。
セットしながら安田は、「俺の隣」とだけ答えた。
え、他に選択肢ねーの?満足気にDVDプレーヤーから離れた安田はきょとんとした顔で突っ立ている俺を見上げて自分の隣を叩いた。
その後ではっとしたようにベッドからクッションを取って、置いた。
…何、コレ…コイツの隣座るの確定かよ。別に良いけど…本当変な奴。
いつもなら好きな場所座れって言うだけなのに。暴風警報で人とくっ付きたい気分なのか…?取り敢えず指定された場所に大人しく、座る。
安田がリモコンで再生を押すと、どうやらライブのDVDらしい。
きゃー、やらうおー、やら良く分かんねー歓声が入り乱れて、AKY108が次々とステージに現れる。歌が流れ始めて、テレビからは『ニンゲン誰しも煩悩だらけよ〜〜』とこれまた良く分かんねー歌詞が聞こえた。


「……」

「……あれ…安田お前、いつもうるせー位騒いでんのに静かだな。熱子ちゃん出てんぞ?」

「あ?あ、おう…」


何だか上の空な安田。…何だよ居心地悪いな。携帯を開いて藤への返信画面に切り替えると、急に安田が俺を真面目な顔で向いた。コイツやっぱ顔は良いなあとしみじみ。
普通に整ってるし、そう言えば俺コイツの声好きだな。何か安心するっつーか、男なのに何か変な話だけど。親近感…とはまた、違うと思う。
ぼうっと安田の顔を見ていると、疲れたような溜め息にはっとした。安田は一人ごちに首を振ったり、ねーよ…とか顔を覆ったりしてる。
何だコイツ。挙動不審にも程がある。怪訝に思って眺めていると、不意に安田が立ち上がって窓に寄った。うわ、と驚いたような声が聞こえて――


「あ…雨!やべえ!」


俺も思わず立ち上がって安田の横から窓の外を見た。そこまで時間は経っていない筈なのに強風が吹きあられびょうびょうと大きな音を立てながら、同時に雨が窓を叩いている。嘘、これ帰れねーよ?
お母様に送って貰うって手も有るが、これじゃ車でさえ運転出来ないだろう。
徒歩じゃ先ず無理だし…何このフラグ?いらねーよ捨てるわ!
貼り付くような状態で茫然と外へ視線を向けたままで居ると安田が顔を顰めながら扉に向った。それから、また手招きされる。


「ちっとババ…お袋に話すか。一応止むのを待つ事にはなると思うけど…いつ止むか分かんねーし」

「あ…サンキュ。お前って意外に気が利くよな」

「意外じゃねーよ。流石安田様々だろうが」


小さく笑い声が聞こえて、俺は何となく安堵しながら階段を降りる安田の後を追った。












安田安田うるすぇええ…←
もう既に砂糖一杯。これからガンガン甘ったるくなる予定。






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