*みょうじさんが微妙に変態 *主直前提? Go→
「…これが例のブツですか」
「ああ…約束、忘れてないだろうな」
「もっちろんですとも。約束は守る女ですから…!」
「…じゃあ、頼んだぞ」
放課後、ジュネスのフードコート。 普段はテレビに入る時以外座る事の無い、屋根の有るテーブルに二人は付いていた。 明らかに椅子はすかすかで、お前ら他座れよと言わんばかりの視線が突き刺さる。 しかし男子生徒…月森は気にした様子も無く、腕を組んで無表情に僅か愉快気な色を滲ませた其れを顔面に貼り付けて居た。 もう一方の女子生徒は頬をこれでもかと言う程に興奮からか赤く染め上げ、手に扇のように広げた写真をじっくりと見ていた。 どちらにしろ視線は全く意に介さないようで、最早自分の世界に入っている状態である。
「出回ってたのは知ってたけど、行くに行けなくてさ!あー有難う、今回ばかりは感謝する!」
「不本意だけどな。…まあ、今回は等価交換ってやつだ」
「ってかさ、この…直斗くんとか千枝とかはおまけ?」
「…ああ…違う」
「え、じゃあなにさ」
「間違えたんだ、其の千枝は一条に押し付けるやつだった」
「…な、なにそれすっごい楽しそう!今度渡す時、呼んでよ!」
「一条が可哀想だろ馬鹿。階段の陰で聞いてろ」
ちぇ、と言いつつも表情は未だに嬉々とした色を隠そうとしない。 手には「ミス?八高コンテスト」で女装した花村の写真が所狭しと並んでいる。 ガッカリ王子と謳われたその人物は女装に於いても見事にそれを発揮していた。 赤く色付けされた頬に口紅。 無ければ多少は見所が有ったであろう花村を台無しにしている気がする。 元より花村には期待が寄せられていたようであったし、恐らく花村自身もこれ程までにガッカリされるとは予想だにしなかった筈だ。 それでもみょうじは女装した花村を異様な程に褒め称え、こうして今、月森との「等価交換」によって写真を得ている。 等価交換と言ってもお互い相手のものは大した価値も無いと思っている。 片や相棒、基親友の女装写真。 片や友人の出回った女装写真抹消。 本人に取って見れば至極大事な、大事な(大切な事なので二回言いました)事なのである。 取り敢えずそれは理解すべき所、ひいては既知であるが故にその疑問を発する事は無かった。
「さて、ミッションコンプリートってやつですね。早く部屋の写真立てに入れないと!」
「一週間以内には消せよ?…あぁあと…花村には内緒な」
しい、と立てた人差し指を唇に押し当てて見せる。顔は良い。若干性格は残念だ。 そんな転校生である月森、彼も本来はガッカリ王子と呼称されてもおかしくは無い。 それが無いのは恐らく、古株のお陰だろうと思われる。
所謂、喋ると三枚目、と言うやつだろうか。
目的を果たした互いに予定など有る筈も無く、と言いたいところだが月森は学校へ戻るとの事。 真顔で直斗と仲を深めてくる、と言った事にはドン引きだ。 帰り際に抜け目無く直斗の写真を抜き取り立ち去る。 取り残されたみょうじ、宣言通り写真立てに収めようと自宅へ歩き出した。 ジュネスは花村のテリトリーだ。早々に立ち去らなければ、先の事もバレてしまう。 そうしたら花村所か月森からも被害を被る事になる。 一番恐れるべきなのは、後者だろうか。 花村に至って何だかで諦めてくれるだろう、と長年の勘と付き合いが告げていた。ファイルに挟んでバッグへと仕舞う。
タイミング良くも、花村が向かい側に見えた。 因みに今はジュネスの自動ドアの正面で有り、恐らくは鉢合わせ。バレる可能性は無いだろう。 ジュネスにフードコートが有った事を今は、心底感謝した。 あれのお陰でどうにか、喉が渇いただのと言い訳が出来る。中々、ジュネスも悪くないものだ。
「よ!…どした、こんな所で」
「喉渇いたからついでに」
「一人で買い食いって、寂しくねえ?」
「別にー。…じゃさ、一緒にフードコート行こう」
「はあ?お前さっき行って来たんじゃん?」
「だから、一人で寂しい思い出を塗り替えるの!ほら、行きましょう殿!」
「殿じゃねえよ!…ったく、いいけど」
盛大な溜め息は付き合わされる事にか、告げた理由に対してか。 我ながらなかなか良い言い訳だ、とみょうじひっそり嘆息する。 これで花村と少しの間を過ごせるのだ。 最早気付いてないのは花村だけで、周知で有る。 みょうじの花村への恋心は、隠しようの無いものにまでなっていた。 気付けば視線はそちらへ、何かと花村の側へ、彼女は相談や悟られる事を酷く嫌がったが、相談は大切だと有り余る伝達力で月森が説得を果たしていた。 さて、花村はと言えば気付く様子も無しにただ、友人としての時間を一人で満喫していた。 近くで花村のミス?コンに対しての不満や愚痴を聞くみょうじがどのような思いで其処に座っているのか等、知る由も無い。 せめて本人にバレないよう細心の注意を払って隠し通して来たその想いは、次第に膨らんでいくばかりで鎮まる事を知らなかった。
分け隔て無く、友人としてなら付き合い易い花村。 それが今は仇になっている事が、否めなかった。
「はなむー」
「…っとと、何だ?」
愚痴に花を咲かせていた花村がはっとした風に口を閉じる。 可愛いなあ、なんておっさんくさい呟きを飲み込んで。 みょうじにとって花村はアイドルのようなものであり、好きな人、であり、良き友人だった。 そこに「格好良い」と言う概念は偶にひょっこり顔を出すのみで大抵は、「可愛い」が大半を占めていた。 それで良いのかは分からないけれど、結局好きである事に変わりはないと言う事である。
すう、と吸った息は長年の想いに変わって吐き出された。
写真は何だったんだろうか。
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